植物研究助成

植物研究助成 24-14

クロロフィル蛍光による光合成活性測定法の誤差解析と補正法開発

代表研究者 東北大学大学院 生命科学研究科
助教 小口 理一

背景

 光合成は地球上の全生物の生存を支え、炭素循環の担い手でもある。植物の光合成モニタリングは将来の大気CO2濃度の上昇・温暖化予測に必要な生態系炭素循環モデルに不可欠であり、農作物の生育状態観測にも重要である。クロロフィル(Chl)蛍光測定法は光合成活性を非破壊的に短時間で測定できるため、実験室での光化学系活性測定から、野外での群落光合成モニタリング、リモートセンシングといった様々な分野で用いられる。しかし、高等植物の測定では、葉の表側から測定光を当てて蛍光を測るため、葉のどの深さの情報を得ているか明らかでないという問題がある。葉内部には葉緑体の吸光により、群落同様に光勾配が存在する。葉表側の葉緑体は十分な光を受けても、裏側の葉緑体は十分な光を受けておらず、Chl蛍光法に誤差をもたらしている。

目的

 申請者らが開発した葉内Chl蛍光測定法を改良して、葉組織全体で光合成活性の光応答を測定できるようにする事を目的とする。様々な植物で一般的なChl蛍光法の誤差を測定し、葉面積あたりの重さやChl含量といった測定しやすい形質を用いた誤差の補正方法を確立する。

方法

 マイクロマニピュレーターを用いて、極細光ファイバーを葉内に刺し、葉内部の各深さでChl蛍光を測定することで葉全体での光合成活性を測定する。広く用いられるChl蛍光測定法の誤差を様々な種で定量化する。この際、測定誤差をもたらす主な形質として葉面積あたりの重さおよびChl含量を測定し、これらの2形質と測定誤差の関係を各植物で求める。

期待される成果

 Chl蛍光法の誤差を補正し、群落光合成モニタリングやリモートセンシング技術を高精度化することは、将来の大気CO2濃度の上昇および温暖化を正しく予測するための重要なステップとなる。また、モニタリング技術の高精度化によって、いち早く農作物の生育異常を察知する事は作物の生産量および品質の低下を防ぎ、生産効率を上昇させる。生理レベルでは、ストレス環境下での光合成系防御に関わるとして注目される光化学系I循環的電子伝達速度の推定や、光合成の最大速度や水利用効率に関わることで注目される葉内CO2拡散抵抗の推定にChl蛍光法が使用されているため、推定法の高精度化に貢献できる。