植物研究助成

植物研究助成 24-18

足尾煙害地における在来広葉樹種植栽に基づく森林の回復・再生に関する研究

代表研究者 地球環境戦略研究機関 国際生態学センター
研究員 矢ヶ崎 朋樹

背景

 栃木県西部に位置する足尾・松木川流域の植生はながく煙害、火災、森林伐採などの銅山開発の影響を受け、その荒廃と修復の歴史は、1610年の銅山発見から数えると数百年にもおよぶ。先行研究(佐々木、1985)によると、足尾銅山跡地周辺では4つの異なる立地に対応した遷移系列が考えられ、風化岩土壌地の終局群落として「イヌブナ、ミズナラ林」が挙げられている。そのため現地では、クロマツ、ヤシャブシ、ニセアカシアなどの先駆性の緑化適用樹種以外にも、ミズナラなどの在来広葉樹種を用いた植栽工も部分的に採用され、成果をあげつつある。しかしながら、こうした煙害地での森林再生事例をはじめ、その始相(草地・灌木地)から現在途中相(広葉樹林)にいたる短期間の植物社会の移り変わりに関して、その個々の樹木の生長挙動や、森林の発達過程と立地環境、生物環境との対応関係を解明した研究事例は多くない。

目的

 本研究は、足尾煙害地における在来広葉樹種植栽に基づく森林再生の回復過程について、群落記載的アプローチにより解明することを目的とする。

方法

 足尾煙害地内の臼沢(在来広葉樹植栽エリア)を対象に、植栽年のそれぞれ異なる複数の箇所に永久方形区を設定し、その植生の回復状況を記載する。方形区内では毎木調査、植物社会学的植生調査を実施し、植栽木の生長量をはかると同時に、回復植生の種組成・構造を記載する。また、生物季節調査、気温測定を同時に行い、植生―環境間の相互関係を分析する。さらには、現地で得た植生情報を非煙害地で得られた植生情報と比較し、群落組成や構造について類似度、帰化植物出現率などの各種指標を用いて植生学的な評価を行う。

期待される成果

 在来広葉樹種植栽10年後の効果を群落組成、構造、立地、生物環境の解明を通して評価することができ、現地採用された樹木植栽工の技術的な検証を進めることが可能になる。さらには、その結果を現地関係者へ発信し、森林生態系の回復・保全のための新たな技術開発へ応用することができる。以って、いまだ回復手つかず状態の広大な煙害地(無立木地)の修復について、多様な関係者による連携・協働のインセンティブが形成され、在来広葉樹を主体とする持続可能な森林の再生に向けて、研究、実践活動の両者が具体的に進む。