植物研究助成

植物研究助成 24-20

植物細胞の万能細胞化に関与する代謝ネットワークの解明

代表研究者 千葉大学大学院 園芸学研究科
准教授 渡辺 正巳

背景

 我が国には、約7000種類の植物が自生し、1690種が絶滅危惧種(狭義)に指定されています。しかしながら、植物種の多様性を保全・再生する有効性のある対策がとられているとは言えません。本研究の全体構想は、絶滅危惧植物の万能細胞バンクを設立し、体細胞クローン個体を大量増殖させて、植物種の多様性を保全・再生することです。
 一般に植物の体細胞は、動物細胞と異なり分化全能性があり、個体再生能力があります。植物細胞は細胞壁に囲まれているため、葉から単細胞を単離するためには、細胞壁分解酵素で細胞壁を溶解させる必要があります。このようにして単離された単細胞(プロトプラスト)は、過剰なストレスを受けているので、タバコなど一部の植物のプロトプラストでは比較的容易に個体再生しますが、他の多くの植物ではプロトプラストが初期化せず、細胞死に至ります。

目的

 研究の全体構想は、絶滅危惧植物の万能細胞バンクを設立し、体細胞クローン個体を大量増殖させて、植物種の多様性を保全・再生することです。その実現のために、本研究では、葉とプロトプラストの代謝産物を網羅的に比較し、プロトプラスト化によって引き起こされた代謝の変化を解明します。プロトプラスト化によって代謝がどのように変化したか具体的にわかれば、プログラム細胞死を阻止してプロトプラストを初期化するための技術開発に応用します。

方法

葉および葉肉プロトプラストから可溶性成分を抽出し、1H NMRスペクトルを得ます。これを主成分分析にかけて、代謝産物のプロファイリングを作成します。
GS-MSおよびLC-MS/MSによって、葉とプロトプラストの一次代謝産物を定量します。

期待される成果

 種子繁殖では開花および交配に手間と時間がかかります。花を付けない植物も多数あります。生長点培養を絶滅危惧種の大量繁殖に利用することもできますが、植物1個体から採取できる生長点は限られてしまいます。絶滅危惧種の大量増殖にプロトプラストを用いる利点は、葉1gから約10万から1000万個のプロトプラストを単離できる点です。将来、絶滅危惧種のプロトプラストから万能細胞が作成できれば、絶滅危惧種の万能細胞バンクを設立します。万能細胞から絶滅危惧植物を大量増殖させることによって、種の多様性の保全と再生への貢献が期待されます。