植物研究助成

植物研究助成 25-03

伊豆半島の野シバを主対象とした系統解析と塩適応性に関する研究

代表研究者 東京工科大学 応用生物学部
教授 多田 雄一

背景

 野シバは日本を含む世界中に広く自生しており、海岸に自生する系統を中心に耐塩性系統が含まれている。しかし、耐塩性の野シバの起源や進化の過程、生理・生態的な特徴、共通する耐塩性機構などについては分かっていない。一方で、世界的に温暖化による気候変動などにより塩類集積地が拡大しているが、耐塩性の野シバはそのような土地の緑化材料として期待されている。申請者らは、耐塩性の野シバの生理・分子生物学的研究に従事し、これまでに海水の3倍の塩濃度である1.5M NaClに耐性を示す野シバを見出して解析している。

目的

 伊豆半島を中心とした日本各地の海岸の野シバを収集し、DNA配列をもとにして系統解析を行うことで、近縁関係を明らかにし、野シバの進化・分類や生理・生態に関する新規な知見を得ることを目的としている。また、採集した野シバの耐塩性のレベルや生育特性を調査して、進化との関係を明らかにする。さらに、塩類集積地などの緑化に適した野生シバを同定して提供することで環境修復や保全にも貢献することを目的としている。

方法

 既に保有する沖縄の野シバに加えて、伊豆半島、東北、北陸や瀬戸内(学内経費を使用)などの海岸線に自生している野シバを採集して、耐塩性や生理・生育特性を明らかにする。具体的には、インキュベータや温室内で耐塩性の検定やイオンの吸収・蓄積特性を評価する。また、塩類腺の有無やその密度、構造についても調査する。さらに、18SリボゾーマルRNA遺伝子のDNA配列を解析して系統樹を作成し、系統の分化と耐塩性の関係を明らかにする。各種野シバの耐塩性機構の相違についての考察も行う。

期待される成果

 伊豆半島等の野シバについて、他地域の野シバと比較してDNA配列に基づいて系統解析を行うことにより、野シバの進化や耐塩性獲得に関する分化の過程を明らかにする手がかりが得られると考えられ、進化・分類学上の意義が大きい。また、耐塩性レベルや栽培特性を評価することで、海岸への適応に関する生態学的な知見を得ることができる。収集した野シバは、各種研究の材料として他の研究者にも分譲可能であり、塩害地を緑化するための材料としても利用可能な遺伝資源バンクとしての役割を果たす。