植物研究助成

植物研究助成 25-05

天城山系におけるヒメシャラ、ヒコサンヒメシャラの個体群動態に関する研究

代表研究者 静岡大学 理学部 総合科学技術研究科理学専攻
准教授 徳岡 徹

背景

 日本にはツバキ科ナツツバキ属は3種(ナツツバキ、ヒメシャラ、ヒコサンヒメシャラ)が知られている。3種ともに太平洋側の関東より西の山地帯に分布するが、南アルプスや富士山ではナツツバキが山地帯の上部、ヒメシャラが下部に分布し、その中間にヒコサンヒメシャラが分布している。一方、核型分析の結果からヒコサンヒメシャラはナツツバキとヒメシャラの雑種起源であることが示唆されており、葉緑体psbA-trnH領域の解析の結果からも交雑が起こっていることが予想されている。天城山には現在までの予備調査でナツツバキは見つかっていない。そこで、天城山系とナツツバキが分布する南アルプスや富士山のヒコサンヒメシャラのDNAタイプを比較すれば、交雑やその分類学的取り扱いを明らかにできる。
 一方、天城山系のブナ林の更新はうまくいっていない。現在はヒメシャラ(またはヒコサンヒメシャラ)の実生がブナ林のギャップに大量に生育しており、万三郎岳下部や皮子平、天城峠にはこれらの純林が形成されつつある。花のできない稚樹や実生でこの2種を区別することはできないが、DNAタイプによって区別しその分布が明らかになれば、天城山系のブナ林の今後を考える上で重要なデータとすることができる。

目的

 ヒメシャラとヒコサンヒメシャラのDNAタイプとその分布を正確に把握することで、ヒコサンヒメシャラの分類学的位置づけを明らかにする。また、天城山系におけるヒメシャラとヒコサンヒメシャラが何処にどれだけ分布しているのかを明らかにし、今後のブナ林の効果的な保全に役立てる。

方法

 天城山縦走路(天城高原ゴルフ場〜天城峠)沿いのヒメシャラおよびヒコサンヒメシャラ群落からできるだけ多くのサンプルを採集する。また、南アルプス(山伏)および富士山でもナツツバキ属3種を採集する。DNAマーカーは予備実験の結果から、葉緑体rpl20-rps12領域およびpsbA-trnH領域と核ITSを用いるが、これ以外のDNA領域も探索する。これらの領域を解析し、ヒコサンヒメシャラで同所的にヒメシャラまたはナツツバキと共有するDNA配列がないかを調べる。

期待される成果

 天城山のブナ林は更新がうまく行っておらず、その将来が危惧されている。この研究はこのブナ林の将来を考える上で重要なデータを提供する。また、ヒコサンヒメシャラの種としての実体を明らかにすることができ、植物分類学上重要な研究となる。