植物研究助成

植物研究助成 25-10

ラン科オニノヤガラ属の微細種子発芽生態の解明

代表研究者 佐賀大学 農学部
准教授 辻田 有紀

背景

 植物の種子が、いつ・どこで・どのように発芽しているのか?植物の生態を知る上で発芽生態の解明は必須である。ラン科オニノヤガラ属の種子は長さ1mm程度と微細で、栄養貯蔵器官を欠くため特定の共生菌から栄養をもらわなければ発芽できない。また、本属植物は成熟後も共生菌に栄養を依存し続ける。このような特性は、ラン科やツツジ科など多くの陸上植物に見られるが、野外における発芽生態についてはほとんどの種において未解明のままである。また、微細種子を持つ植物は多くが絶滅の危機に瀕しており、発芽生態がほとんど解明されていないため、保全を行う上で大きな障壁となっている。

目的

 オニノヤガラ属は生活環が短く、培養下では1ヶ月あまりの短期で発芽することが知られており、微細種子の発芽生態解明に非常に適したモデルとなる。そこで本研究では、ラン科オニノヤガラ属をモデルに微細種子の発芽生態を解明することを目的とし、本属の種多様性が際立って高い伊豆地方を中心とした関東・東海地方における自生地播種試験および、自生地の腐葉土を用いた栽培下での播種試験を行い、1)発芽の時期と発芽に必要な期間、2)発芽に適した環境、3)発芽に必要な共生菌、4)微細種子の発達過程など発芽特性に関する基礎情報を明らかにする。

方法

 オニノヤガラ属について、自生地より回収した完熟種子を袋につめた種子袋を作成して自生地に設置後、定期的に回収して顕微鏡下で発芽を観察する。また、自生地の腐葉土を用いて種子を発芽させる栽培試験を行う。得られた実生よりDNAを抽出し、菌に特異的なプライマーを用いて核ITS領域を増幅後、塩基配列を決定し既知の菌の配列と相同性検索を行い、共生菌の種類を特定する。

期待される成果

 本属植物をはじめとする菌従属栄養植物は、開花期を除く生活史の全てを地下で全うし、花期も短いため、その生態もほとんど分かっていない。本研究成果は、謎めいた菌従属栄養植物の生態を解明する上で貴重な基礎情報となる。また、本属は日本に11種あまりが自生するが、ほぼ全ての種が国や都道府県レベルで絶滅危惧種に指定されている。本研究成果は、オニノヤガラ属をはじめ微細種子をもつ絶滅危惧植物を救う切り札として保全への応用が期待される。