植物研究助成

植物研究助成 25-13

C14 を利用した樹木呼吸の年代測定システムの開発

代表研究者 九州大学 大学院 農学研究院
助教 片山 歩美

背景

 植物が光合成によって固定した炭素は、植物の成長や呼吸に利用され、一部は溶存糖として樹体内に貯蔵される。貯蔵炭素は時に10年以上も樹体内に留まり、攪乱やストレスを耐え抜くための重要な役割を担っていることが知られている。この様な重要性にもかかわらず、“いつ獲得された炭素”が“いつ”“どこで”“どのくらい”利用されているのかいった貯蔵炭素のフローに関してはほとんど分かっていない。それを解決する手段として、近年、炭素同位体(C14)が期待されている。この技術を利用すると、1年以上の時間スケールで炭素の年代測定が可能になる。近年、C14を利用して種子などに取り込まれた炭素の年代は解明されつつあるが、樹木呼吸に利用される炭素に関しては、ガス体を捕獲するといった技術的な困難さから、これまでほとんど研究例がない。

目的

 本研究の目的は、C14を用いて、樹木呼吸に利用される炭素が“いつ吸収された炭素”なのかを明らかにする装置と技術を確立することである。

方法

 C14分析のための装置開発および分析は次の通りである。
1. 樹木呼吸から放出される二酸化炭素をモレキュラーシーブに捕獲する。サンプル木は、炭素を多く貯留することで知られる萌芽樹種(マテバシイ)を用いる。葉の刈取りをすることで炭素欠乏状態を作りだし、刈取りの有無によって呼吸のC14を比較する。
2. リファレンスとして、大気中の二酸化炭素をモレキュラーシーブに捕獲する。
3. モレキュラーシーブを実験室に持ち帰り、グラナイト化する。
4. グラナイトを加速器質量分析にかけ、C14を分析する。(民間の分析会社委託)

期待される成果

 本研究はこれまでにブラックボックスであった貯蔵炭素の呼吸利用メカニズムについて、ブレイクスルーとなる技術を提供する。本研究により、様々な森林においてC14分析が可能となり、飛躍的に貯蔵炭素利用のメカニズムの理解が深まることが期待できる。また、貯留炭素の理解は森林生態系スケールでの炭素循環研究においてもキーとなると考えられている。なぜなら、森林生態系スケールにおいても多量の貯蔵炭素が利用されている可能性が指摘されており (Malhi et al. 2014)、実際にアマゾンでは、炭素欠乏状態となる乾燥状態では、貯蔵炭素の利用が大きいことを示唆するデータが報告されているからだ(Metcalfe et al. 2010)。したがって、本研究は樹木生態生理学的知見のみならず、生物地球科学の分野においても大きな貢献を果たすことが期待される。