植物研究助成

植物研究助成 25-16

森林蒸散量評価のための樹液流速キャリブレーション装置の開発

代表研究者 九州大学 大学院 農学研究院
助教 篠原 慶規

背景

 森林は水源涵養機能を有するが、その一方で蒸散によって多量の水を消費し、水資源量を減少させる。わが国の水資源量評価のためには、森林の蒸散量を高精度で把握する必要がある。森林の蒸散量を計測する方法として、グラニエ法が数多くの研究で用いられている。グラニエ法では、樹木の辺材部に、2つのセンサーを挿入し、その温度差から樹液流速を求める。Granier(1985)は、全樹種共通で利用可能な、温度差からの樹液流速へのキャリブレーション式(以下、グラニエ式)を提示しており、グラニエ式は森林蒸散量の評価に広く用いられている。しかし近年、樹木による道管構造の違い等のため、グラニエ式がすべての樹種について共通に利用できない可能性が室内実験により指摘され始めている。

目的

 2015年度に開発したキャリブレーション装置を改良し、計測を自動化すると共に、我が国の代表樹種について、精度の高いキャリブレーション式を提案し、森林の蒸散量を再評価することを目的とする。

方法

 キャリブレーション装置に、真空コントローラー、電子天秤を組み込むことで、現在手動で行っている圧力調整、吸水量の読み取りを自動化する。この装置を用い、主要樹種のキャリブレーションを進めると共に、スギ、ヒノキについては、キャリブレーション式の地域差も検証する。このように得られた新たなキャリブレーション式を使って、これまで取得したデータを再解析することで、我が国の蒸散量を再評価する。

期待される成果

 近年、日本の代表樹種においては、グラニエ法の計測データが蓄積され、森林間での蒸散量の比較が可能になりつつある。しかし、樹種によってグラニエ式の適用可否が異なるため、蓄積されたデータは誤差を含んだまま解析に供された可能性がある。本研究において、樹種毎に精度の高いキャリブレーション式を構築する。これにより、蓄積されたデータをより真値に近い状態へ再解析することが可能になり、森林間の蒸散量の比較について高い科学的根拠をもたらすことができる。