植物研究助成

植物研究助成 25-17

光合成能力の効率的スクリーニングを可能にする
簡易CO2吸収速度測定装置の開発

代表研究者 京都大学 大学院 農学研究科
助教 田中 佑

背景

 植物の葉が行う光合成は、生態学的観点からは地球全体の炭素および水の循環や一次生産、農学点観点からは作物による食糧生産などの根幹をなす重要なプロセスである。しかし光合成速度の測定には多大な時間と労力がかかるだけでなく、既存の測定装置は一般に大型かつ高価である。そのため、様々なフィールド環境における光合成測定や、多様な遺伝資源を対象とした大量の表現型調査が困難となっている。新たな測定原理に基づく、小型かつ効率的な測定が可能な新型の光合成測定装置の開発が求められている。

目的

 本研究では、従来に比べ測定効率を飛躍的に高め、かつ測定の容易な小型光合成測定装置を開発することを目的とする。そのため、従来とは異なる新たな原理で葉のCO2吸収速度を測定する手法を考案する。新手法に基づき設計した装置を用いて、イネおよびダイズを対象とした光合成能力の解析を行い、新型装置の有用性と精度を実証する。

方法

 現在主流となっている光合成測定装置は開放系とよばれ、精密な測定が可能となる反面、空気ポンプやファンが必須となり、装置の構造も複雑化するだけでなく、濃度平衡に達するまでに少なくとも数分程度の時間を要する。本研究では、測定葉を一定体積の空間内に密閉し、CO2濃度センサーを葉面直下に配置することで、光合成によるCO2濃度の低下速度すなわち光合成速度を直接測定する新手法を提案する。この手法では、測定時間の大幅な短縮と装置の飛躍的な小型化が実現できる。

期待される成果

 本研究の提案する新型装置が完成すれば、従来型装置と比較して測定効率が約10倍以上となる。光合成は植物の根本的プロセスであることから、飛躍的な光合成測定効率の向上がもたらすインパクトは幅広い。例えば作物育種分野においては、光合成速度に優れた系統や変異体を直接スクリーニングすることが容易となる。これにより、非常に優れた光合成速度を持つ作物の育成や、新規の光合成関連遺伝子の探索が加速すると考えられる。また、光合成装置を伴ったアクセスが、従来困難であった海外を含む野外フィールドや農家圃場などにおいて光合成測定が容易となる。これにより、多様な生育環境に対する光合成系の適応の実態を把握することが可能となり、植物生理生態学の進歩や農業現場における生育診断技術にも貢献できると期待される。