植物研究助成

植物研究助成 25-22

ダイコン野生種を用いた放射性セシウムの効率よい吸収回収方法の研究

代表研究者 京都大学 大学院 人間・環境学研究科
教授 瀬戸口 浩彰

背景

 福島第一原子力発電所の事故から、もうすぐ5年を迎えようとしている。原子力発電所が立地する福島県大熊町では、未だに広い面積の帰還困難区域を抱えながらも除染を積極的に行って、低い線量の地域から帰還を目指している。町で最大の面積を占めるのは農地である。環境省による農地表層の剥ぎ取りと山土の覆土を行っても、未だに線量は高い。申請者は、海岸の植物の中に一価の陽イオン(Na+, K+, Cs+)を多く吸収し、かつ植物体の成長を阻害されないものの中から、ダイコンの野生種であるハマダイコンが最大の能力を発揮することを見いだした。そしてこれまでの3年間に亘って大熊町役場の産業建設課とともに、帰還困難区域でセシウム除染の実験を行ってきた。そして現在、播種から僅か二ヶ月で、葉への移行係数が0.13と非常に高い数値を得るに至った。

目的

 福島県大熊町の被災農地などにおいて、ハマダイコンが放射性セシウムを最も効率よく吸収する条件を確立し、かつ年間に4期作が可能になるように種類の選抜をする。また、ハマダイコン以外にも半野生種や葉大根なども試用する。

方法

 硫安肥料とクエン酸の利用で土壌を酸性に傾けて、土壌粒子に結合したセシウムを溶出させる(根酸と同じ効果)。ハマダイコンの生育とセシウムの効率よい吸収を両立できるような最適な条件(施肥頻度や量, pHなど)を調べる。また、ハマダイコンは葉にセシウムを高濃度に蓄積することから、花茎を立てずに、ロゼット葉(タンポポのような根出葉)をひたすら茂らせる栄養成長を続ける系統を季節ごとに選抜する。これには北海道から沖縄にかけて広く分布するハマダイコンの生育特性の違い(北の産地ほど、低温を経験しないと栄養成長を続けて葉を茂らせ続けるが、高温に弱い)を利用する。

期待される成果

 除染を困難にしている、土壌粒子に結合したセシウムを高効率で解離させ、それをハマダイコンの葉に蓄積させることによって、営農の再開と住民帰還の早期化を促すことが出来る。また、ハマダイコンの葉には、高濃度で放射性セシウムが蓄積するので、葉を乾燥させて廃棄物にすることによって、廃棄物減容化に相当な貢献が出来る。4期作によって、除染のサイクルを早めることが可能になる。