植物研究助成

植物研究助成 25-23

植物組織中の凍結制御活性の検索

代表研究者 東京理科大学 理工学部応用生物科学科
教授 朽津 和幸

背景

 地球は水の惑星といわれ、大量の水が液体・固体・気体として地球上に存在する。水は人間も含め、全ての生命活動の場であり、生存に不可欠である。現代文明・産業・人間活動も、水なしでは成立しない。地球温暖化、環境保全、省エネ対策には、気象・降水量の制御、水・氷・水蒸気の三相を省エネルギーで効率よく変換・制御する技術等、水の制御・利活用が重要である。また、絶滅危惧種・希少な遺伝資源・細胞等の保存には、生体中の水をうまく制御・不活化することが重要である。植物は水分が豊富なため、凍結は最も過酷なストレスである。耐寒性を持つ植物は、長い氷河期を乗り越えて生存して来たため、各組織は凍結を精細に制御できる物質の宝庫であることが明らかになりつつある。その中には、凍結を誘発する(氷核活性)あるいは凍結を阻止する(不凍活性)等の物質がある。高い温度で凍結を誘発する既知の氷核活性物質として、ヨウ化銀や氷核活性細菌等があるが、前者は高コスト、後者は菌の病原性や熱に不安定で耐久性がない等の問題がある。

目的

 純水は0℃では凍結しにくく、過冷却しやすい(最大-40℃)。過冷却を打破し、凍結を促進する氷核活性物質は、凍結関連産業の省エネルギーや気象制御等の技術創出に有用である。本研究では、耐寒性植物等に含まれる氷核活性を検索し、高活性・高安定性の新規氷核活性物質を見出し、その特性を解明することを通して、新規凍結制御技術開発に資することを目指す。

方法

 氷核活性を再現性よく測定可能な試験管法による氷核活性検定装置を用いて、さまざまな植物種の各組織から、熱等に安定で高い温度で凍結を誘発できる氷核活性を検索し、その種・組織分布や特徴・機能性・利用性等を解析する。

期待される成果

 安価で高活性・高安定性の氷核活性物質を見出せれば、工業的に水を高い温度で早く凍らせる技術開発(冷却エネルギーを節約した製氷)が可能となり、省エネ冷凍(自動販売機等の小規模な冷凍システムから大掛りなコールドチェーンまで)、省エネ蓄熱冷房(夜間電力で作った氷を利用したビルや地域の冷房)、人工降雨・降雪、燃料電池(水蒸気除去)、食品の香味成分の凍結濃縮技術(氷には溶質が取り込まれないことを利用して、半凍結状態で香味成分を損なわずに濃縮する)、絶滅危惧種・希少細胞の凍結保存(高い温度で細胞外を凍結させ、人工的に細胞外凍結を誘導)、凍結温度を自働検知するセンサー等への応用が期待される。