植物研究助成

植物研究助成 27-02

伊豆半島に自生する柑橘‘タチバナ’の分子生態学的研究

代表研究者 佐賀大学 農学部
准教授 古藤田 信博

背景

 日本国内に自生するカンキツはタチバナとシィクワーサーに限られているが、特にタチバナは絶滅危惧I類あるいはII類に分類されており、種保全の観点から生態学的調査および保護が必要である。伊豆半島を北限とする野生果樹であるタチバナが最近再注目されているもう一つの要因として、タチバナが高含有する機能性成分、ノビレチンが挙げられる。ノビレチンは抗ガン・抗炎症作用が報告されているポリメトキシフラボンの1種で、ごく最近では認知症などの記憶障害を軽減する効果のあることがマウス実験で明らかにされている。

目的

 本研究では、DNA分析に基づき主として伊豆半島のタチバナ自生地内・自生地間における遺伝的および形態的変異について調査し、多胚性野生果樹であるタチバナの生態や雑種性などについて知見を得るとともに、日本の在来カンキツの品種発生・分化に与えたタチバナの役割を考察する。タチバナの機能性成分についてはポリメトキシフラボンを中心に分析し、DNAによる分類・識別に加え、化学的分類も行う。また、近年、タチバナの自生地が消滅している状況や原因についても再調査を行い、今後の種保全に向けたデータを取得する。

方法

 ウンシュウミカンなどのカンキツ属植物由来のDNA塩基配列から作成したSSRマーカーを用い、伊豆半島の自生地から採取したタチバナの個体について、効率的にジェノタイピングを行う。得られた多型データを基に、雑種性やクローン性を判別し、集団内・集団間の変異について統計的解析を行う。雑種性が認められた個体は、佐賀大で作成したカンキツ類の多型データベースと比較し、交雑親の推定を行う。化学分析に関しては、HPLCおよびGCを用いた分析にて実施する。

期待される成果

 本研究により、自生タチバナの遺伝的均質性および雑種性についてDNAレベルで知見が得られる。この知見は、タチバナの種保全に関する基礎的データとなる。さらに、自生タチバナの集団における機能性成分が明らかとなり、静岡県沼津市におけるタチバナ保全団体との連携も期待される。一方、国内には様々なカンキツの在来系統や雑柑類が発生している。そのような日本の在来カンキツの品種発生・分化に与えたタチバナの役割を考察することも可能となる。