植物研究助成

植物研究助成 28-16

濡れに対する植物個体の動的な生理生態応答の総合診断システム

代表研究者 九州大学 大学院農学研究院
准教授 安武 大輔

背景

 植物の濡れは、降雨のみならず、夜間における水蒸気凝結や葉の水孔からの排水によって頻繁に発生し得る現象であるにもかかわらず、濡れに対する植物の生産性に関連する生理生態機能の応答特性は十分には理解されていなかった。一方、代表者は乾燥地畑において、夜間の空気中の水蒸気凝結に起因する葉の濡れを観察し、さらに濡れが続く午前中は葉が萎れず、水ストレスによる気孔閉鎖も起きないことを観察した。そこで代表者は、独自の計測システム(植物個体チャンバシステム)を構築・利用することで、“濡れの優位性”を植物のガス交換特性と水分生理機能(水分状態,通水特性)に基づいて明らかにした。次のステップとしては、光合成システムのメカニズムの観点から濡れの影響を解析することが有効と考える。

目的

 濡れに対する植物の動的な生理生態応答を解明するために、植物のガス交換速度と水分生理機能に加えて、光合成特性を決定付ける最重要パラメータである「最大電子伝達速度」と「最大カルボキシル化速度」も同時計測できる手法(総合診断システム)を確立することを目的とする。とくに乾燥地作物として代表的なトウモロコシ(C4植物)にも対応できるシステムを確立する。

方法

 申請者がこれまでに構築していた植物個体チャンバシステムに、市販の携帯型光合成装置を組み込むことで、光合成パラメータを併せて診断できる機能を付加する。とくに、チャンバ内に低酸素条件を創出したうえで光合成速度-葉内間隙CO2濃度の関係を計測することで、C4植物の光合成パラメータの取得を可能とする。

期待される成果

 葉のガス交換速度、植物体の水分生理機能(水ポテンシャル、通水抵抗など)の同時かつ連続的な計測に加えて、光合成を決定付ける最重要パラメータの評価も可能になる。すなわち、自然界で頻繁に起こり得る植物の濡れに関して、その動的な生理生態応答特性を総合的に診断できる世界初のシステムが確立される。それゆえ植物科学的に高い普遍性と先進性が期待される。