復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-02

研 究 題 目
三陸沿岸における魚介類の放射性物質汚染モニタリングと漁業復興再生
所属機関・役職
東北大学大学院医学系研究科 教授
代 表 研 究 者
仲井 邦彦

【研究目的】

 福島第一原発事故後、宮城県北部および岩手県南部に降下した放射性物質はいずれ河川を経て沿岸部に運ばれ、沿岸部環境を汚染し、そこで採取される魚介類や農作物の汚染を介して人体を汚染することが懸念された。このため環境生物試料を中心に放射性化学物質のモニタリングを行うとともに、食品を介して人体を汚染しているのかを検証した。

【研究方法】

 宮城県沿岸部の汚染については、岩手県を源流とする大川河口域と気仙沼湾を中心に、魚介類を収集して放射性物質の測定を実施した。その結果、予想に反して、魚・貝類のいずれでも極めて低い数値のみが観察され、沿岸部海域の汚染は極めて軽微であることが確認された。
 一方で、気仙沼市大川流域で採取されたウグイより、食品の摂取基準値である100 Bq/kgを超える数値が観察された。このため淡水域におけるセシウムの生物濃縮を疑い、河川底泥、河川水、コケ、水生昆虫、エビ類、小魚〜中型魚までの分析を行ったが、雑食性魚類と一部の水生昆虫で高い数値が検出され、特に水生昆虫のヒゲナガカワトビゲラで高い値が繰り返し検出された。季節変動は大きくなく、少なくとも調査期間中に減衰は認められなかった。水生昆虫は年中採取でき、採取も容易であり、魚と異なって移動せず、また産業資源ではないため漁業権の制約もなく採取可能である。セシウムによる汚染の空間的および時系列でのモニタリングに良好な指標と考えられた。
 放射性物質の人体移行があるのかを検証するため、出産女性の協力を得て、胎盤および母乳、さらに一般市民の協力を得て陰膳法による放射性物質の摂取量を把握した。胎盤または母乳からは放射性物質はいずれも検出下限値(母乳3 Bq/kg、胎盤1 Bq/kg、陰膳 0.5 Bq/kg)を下回り、陰膳の一部で僅かに下限値を超える事例が観察されたものの、極めて低いレベルであり、人体への移行はほとんどないことが確認された。安全と安心の視点から、調査結果を調査参加者と市民に還元することが重要と考え、協力者に結果報告を郵送するとともに、談話会(1月26日および27日、宮城県医師会との共催で実施)を開催した。

【まとめ】

 三陸沿岸部にもホットスポットが観察され、特に淡水域における放射性セシウムの汚染が示唆され、内水面漁業を中心に風評被害が懸念された。しかし、現状では人体への移行は非常に限られたレベルにとどまっており、安全面に関しての懸念はないものの、市民の中には不安を募らせているケースが観察され、風評被害の解消を含め、情報提供、情報公開などの活動の重要性が示唆された。