復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-03

研 究 題 目
放射性セシウムの生体での取込・排出機構の解明と内部被曝の低減化の試み
所属機関・役職
京都大学大学院農学研究科・准教授
代 表 研 究 者
白井 理

【研究目的】

放射性セシウムの生物学的半減期の短縮化を念頭に置いて、セシウムの生体膜での透過機構を解明し、それを基にセシウムの体外への排出を促す方法の開発を目的としている。
同法は、汚染された飲食物の摂取等による内部被曝の影響の低減化に利用できると期待している。さらに、同法は他の元素 (ストロンチウムや重金属) への適用も予定している。

【研究方法】

平面脂質二分子膜を介した二水相間のイオン移動については各種電気化学測定を行う。これにより、セシウムの透過特性を評価し、カリウムや他の元素との比較を行う。また、脂質二分子膜で覆われた小胞であるリポソームからの各イオン種の流出挙動やモデル膜系での各イオン手の投下挙動について電気化学測定及び分光測定を行い、体内濃縮機構の解明を行う。さらに、水相中のイオン組成変化や錯形成剤等の添加によるセシウム透過に与える影響を評価し、体外排出促進技術を構築する。

【研究成果】

電解質溶液として 0.1 M KCl を用いた場合に比べて 0.1 M CsCl を用いた場合では約 3 倍の膜透過電流が流れた。アニオンを Cl- から ClO4- に変えた場合でもカリウム塩に比べてセシウム塩の方が約 3 倍の膜透過電流が観測された。次に、脂質二分子膜の膜電位に及ぼす水相の電解質濃度依存性を調べ、カチオンの拡散係数とアニオンの拡散係数の比を評価した。透過係数は脂質相内の拡散係数と水相|脂質相での分配比の積に比例することを念頭に置くと、アルカリ金属カチオンでは結晶イオン半径が大きくなるにつれて脂質相内での拡散係数が小さくなることが判明した。イオンの膜透過電流及び脂質相内での拡散係数の違いから水相|脂質相での分配比を見積もり、そこから水相|脂質相におけるイオン移動電位を評価した。その結果、Cs+ の移動電位は K+ のそれに比べて約 60 mV 負側である、即ち Cs+ は K+ より約 10 倍脂質二分子膜の内部に分配しやすいことが判った。
通常の細胞内外では細胞膜の 2 界面は K+ の移動により復極しているため、約 -59 mV の膜電位が発生している。モデル細胞系を組み、細胞外に相当する水相に CsCl を添加したところ、細胞内に相当する水相の Cs+ 濃度は時間経過とともに上昇し、細胞外に相当する水相の Cs+ 濃度を超えることを確認した。このことから、K+ の細胞内外の濃度比で制御された膜電位によって Cs+ が細胞内へ蓄積されることを明らかにした。

【まとめ】

アルカリ金属イオンの移動エネルギーを評価し、それに基づいて放射性セシウムの生体での取込・排出機構を説明することができた。また、生体・細胞への蓄積機構も解明できた。