復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-03

研 究 題 目
山地放牧草地におけるセシウム汚染の空間予測モデルの開発
所属機関・役職
東北大学 大学院農学研究科 准教授
代 表 研 究 者
米澤 千夏

【研究目的】

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電事故による放射性物質の拡散は、東日本の広範囲にわたる土壌汚染をもたらした。畜産業においては汚染された牧草をウシが摂取する可能性があることから、事故発生後5年を経ても放牧の自粛が続いている地域がみられる。放牧地内の空間放射線量率の分布を調べることは、今後の対策をたてる上で重要である。そこで本研究では、パラモータを用いて上空から広域の空間放射線量率を一度に測定することによって地上での線量率を推定する方法を開発し、さらに土壌−植物系におけるセシウム汚染について広域的かつ詳細に評価することを目的とした。

【研究方法】

宮城県大崎市の中山間地に位置する東北大学附属施設内の放牧地を対象とし、上空500mをパラモータで飛行しながらCsI(TI)シンチレーターによって空間放射線量率を測定した。パラモータによる測定点の直下に相当する地点で現地調査をおこない、空間放射線量率の計測および土壌(ルートマット)および植物体試料を採取し、放射性セシウムの濃度を計測した。地上と上空での空間線量率の測定値から高さによる減衰率を求め、地上での空間線量率を推定し、逆距離加重法による内挿によって空間線量率の分布図を作成した。

【研究成果】

シンチレーターの測定誤差を考慮しても、地上での空間放射線量率が周辺よりも大きい地域、小さい地域は明瞭であり、パラモータからの計測をもとに地上での空間放射線量率の分布が得られることを示した。地上での空間線量率の推定値が、測定値に対してシンチレーターの測定誤差である±20%以内であった測定点は8地点のうち5地点であった。パラモータ―による計測値をもとに推定される地上での空間線量率は、ほぼ実際の値を反映していると考えられる。しかし、上空での計測値が明らかに他の地点と異なる場合には、推定値が実際と異なる可能性を考慮する必要がある。また、地上で実際に特に周辺より高線量率もしくは低線量率の場所は、上空からの計測による推定においては反映されない場合がある。土壌中の放射性セシウムの濃度は空間放射線量率とともに大きくなる傾向がみられた。植物体の放射性セシウム濃度については、空間放射線量率および土壌の放射性セシウム濃度に対して小さくなる地点が2地点あった。

【まとめ】

パラモータによる測定値をもとにした地上空間放射線量率の分布図は、土壌中の放射線セシウム濃度の空間分布の推定にも利用でき、放射能汚染をうけた放牧地の管理に活用できる。今後、放牧草地に限らず、平坦な農地等における空間放射線量率の分布についても本手法を適用・検証していくことが必要と考える。