復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-02

研 究 題 目
尿を用いた牛の血中セシウム濃度の高精度推定法の確立
所属機関・役職
岩手大学 農学部 教授
代 表 研 究 者
佐藤 至

【研究目的】

牛を出荷する際には、放射性セシウム(Cs)に係る基準を超過する虞がないことをあらかじめ確認する必要があり、その方法として、1)体外計測法、2)血液測定法、3)尿測定法、の3つがある。このうち尿は人の内部被曝評価にも使われており、大量採取が容易でCs濃度が血液よりも高いなどの利点があるものの、体内汚染レベルとの相関が低いことが知られており、尿による単純な推定は困難である。よって本研究は、尿中Cs濃度を種々の因子によって補正することにより、生体汚染レベルを精度よく推定する方法を確立することを目的とする。

【研究方法】

福島県浪江町および大熊町の牧場で飼育されている黒毛和牛から採血および採尿を行い、血液と尿の放射性Cs濃度をGe半導体検出器を用いて測定した。尿については更に比重、pH、導電率、クレアチニン、カリウム、カルシウムおよびナトリウムイオンをイオンメーター等を用いて測定した。これらの結果について重回帰分析等の解析を行い、これらの因子を補正項として加えて尿中Cs濃度から血中Cs濃度を正確に推定する計算式を考案した。

【研究成果】

尿中Csと血中 Csの比(Cs濃縮率)は平均5.7であったが、個体差が大きく、「血中Cs=尿中Cs/ 5.7」として推定した場合、その誤差(変動係数)は62%に達した。Cs濃縮率と尿中のカリウム、導電率、比重およびクレアチニンとの相関係数が0.8以上であったことから、これらを補正因子として推定したところ、精度が大幅に向上した。補正因子としては比重が最も有効で、下記の式によって推定した血中Csの誤差は23%であった。
血中Cs=尿中Cs / (尿比重−1) / 329
さらに推定精度を向上させるため、ベストサブセット法による重回帰分析を行った。その結果、クレアチニン(CRE)とカリウム(K)の2つを説明変数とした時が最も寄与率(R2)が高く、これによる推定式は次のとおりであった。
血中Cs=尿中Cs / (0.382[K] + 0.063[CRE] - 0.269)
この推定法の誤差は22%であり若干の改善が認められたが、クレアチニン測定の煩雑さを考慮すると比重補正による推定が最も実用的であると考えられた。

【まとめ】

食肉中の放射性Csの基準値は100 Bq/kgで、牛の筋肉と血液のCs濃度の比は20前後であると報告されている。安全側に評価するため「25」を採用すると、血中Cs濃度は4Bq/kg未満でなければならない。比重補正法によって推定した血中Cs濃度の95%信頼区間が「推定値±45%」であったことから、本法による推定血中Cs濃度が2Bq/kg未満であれば、牛肉中のCs濃度が100 Bq/kgを超えることはないと考えられる。このことから、尿による血中Cs濃度の推定値は、牛を出荷する際の有用な判断材料となるであろう。