市村アイデア賞

受賞団体訪問

「本気、元気、正直」を合い言葉に、創造性と思いやりの心を育む
第46回(平成27年度) 優秀団体賞 愛知県刈谷市立小高原小学校
全校児童を代表して発想のきっかけや製作過程を話してくれた4名の受賞者のみなさんと、左から服部教頭、磯谷校長、右端は理科担当の石橋教諭
全校児童を代表して発想のきっかけや製作過程を話してくれた4名の受賞者のみなさんと、
左から服部教頭、磯谷校長、右端は理科担当の石橋教諭

メタセコイアの大木が見守る「本気、元気、正直」

 第46回市村アイデア賞では全国から28,668件の応募が集まり、応募団体数も272団体に達しました。今回訪問したのは、優秀団体賞を受賞し、個人賞でも4名が入賞した愛知県刈谷市立小高原(おだかはら)小学校(以下、小高原小)です。
 明治40年に刈谷町第二尋常小学校として創立された小高原小は、最多期には1,900名あまりの児童を抱え、現在までに3つの分校を出しました。現在26代目となる校長と約40名の職員の元で、500名近い児童が学んでいます。
 そんな長い歴史を持つ小高原小の校訓は「本気、元気、正直」です。運動場の南にはメタセコイアの大木が3本ありますが、児童たちはそれを元気の木、本気の木、正直の木と言いながら、どんな時もこの校訓を生活の目標にしているそうです。
 「本校の教育目標は知・徳・体の調和のとれた、たくましい実践力のある児童の育成です。これを校訓である3つの言葉に当てはめて、教師と児童、児童同士がふれあいを大切にし、お互いを思いやる人間関係を醸成できるように日々指導にあたっています」と磯谷伸之校長。

校訓「本気、元気、正直」の巨大な石碑
校訓「本気、元気、正直」の巨大な石碑

作品展示と周囲の熱意が児童たちの本気に火をつける

 ものづくり産業が盛んな刈谷市において、小高原小は市村アイデア賞に毎年参加し、理科研究にも積極的に取り組んできました。各クラスとも夏休み前には、理科の授業中に時間を取ってアイデアの計画段階から進め、夏休み中に「創意工夫作品」もしくは「一人一研究」のどちらかの課題に取り組ませています。
 「ここで作った作品が市村アイデア賞にも応募できるので、アイデアだけでもと参加を促しています。優秀作品には金賞、銀賞を校内で与えていますが、ほぼ全校職員が集まって、担任の説明する作品を評価します。すべての作品は夏休み後に、理科室前や体育館で展示をするので児童たちの意欲につながっています」と、理科担当の石橋美樹教諭。
 加えて、小高原小では児童たちを取り巻く周囲の環境も理科研究を後押ししています。校内では10年ほど前から「理科研究・創意工夫工作ガイド」という、昨年度までの市内の優秀作品や研究などがまとめられた冊子が刈谷市から配布されており、児童たちの研究テーマや、担任の研究・工作指導の手助けになっています。
 「市からも助けていただいていますが、保護者の方の関心もとても高いです。例えば夏休み明けに3日間、体育館で児童たちの作品展を開きますが、昨年度は17時までだった開館時間を、会社帰りの保護者の方が見られないということで18時30分まで延長しました」。この他にも、市内では企業が主催する工作教室や企画展など、ものづくりへの実践的な入り口が多く見られ、職員や保護者の方々のこうした情熱が、児童たちの「本気」に火をつけることは間違いないと磯谷校長は言います。

今ではすっかり年中行事 “家族の困った”をヒントに参加者が増加中

 「児童たちも、指導する教員も創意工夫に満ちた作品をつくることにとても意欲があり、皆チャンスをもらえてうれしそうにしています」と、市村アイデア賞へのモチベーションの高さを服部健也教頭は語ります。
 今回も全校児童497名中363名が応募し、様々なアイデアあふれる作品を見せてくれました。全校児童を代表して、個人賞を獲得した4名のみなさんに発想のきっかけを聞きました。
父親の雑草抜きを助けようと思い、家で使わない物を再利用して製作した。1年生から6回連続で応募しており、初めて賞を取れたのでとてもうれしかった(6年生)。
1歳の弟がたくさんティッシュを使ってしまい母親が困っていた。弟が好きなだけティッシュを出せるようにキャラクターで興味を惹くように工夫した(3年生)。
あごを乗せることでカウントされる腕立て伏せ器具を発想し、父親が喜んでいた。将来は建築家やファッションデザイナーを目指したい(3年生)。
キャンプの火起こしをヒントに、かきまぜマシンを作った。スムーズに回転するように、色々な乾電池を重りにして組み立てを何度も繰り返したことが大変だった(2年生)。

 「今では応募することが年中行事になっている」というくらいにみなさんに定着している市村アイデア賞。工作が苦手な児童でもアイデアだけで応募できるため、年々参加者は増加しているそうです。今回取材したみなさんも、早くも次回作の構想に胸を躍らせていました。

理科教室前の研究作品の展示コーナー   受賞した力作を実演
理科教室前の研究作品の展示コーナー
 
受賞した力作を実演

互いへの思いやりを大切に 「日本一あたたかい学校」を目指す

 日頃からの指導が習慣として身につき、市村アイデア賞の結果にも好影響を与えている小高原小。最近では「日本一あたたかい学校を目指そう」という取り組みを始めています。
 「児童、保護者、職員、地域の方々に対して、互いに思いやりを持って対応しようという目標です。例えば同じように注意するにも、禁止言葉の“廊下を走るな”ではなく、“廊下を歩こう”と言って、良い部分を見る姿勢を大切にしています。これを皆で呼びかけることで、子どもたちや職員にチームワークの意識が浸透してきていると感じています」(磯谷校長)
 大人顔負けの発想力もさることながら、取材を通して、個人賞を獲得したアイデアに感じたのは「思いやり」と「身近さ」です。「家族が困っている」ことを察知する感性と、「こういうものがあったらいいな」と身の回りのものを組み合わせる創造性は、児童たち、教員、保護者、地域が一体となって絆を深め合う小高原小の取り組みから、今日もすくすくと育っています。

昨年は文部科学大臣表彰「創意工夫育成功労学校賞」も受賞   校舎と広い運動場
昨年は文部科学大臣表彰「創意工夫育成功労学校賞」も受賞
 
校舎と広い運動場

(取材日 平成28年3月2日)