市村アイデア賞

受賞団体訪問

「自主自律」の精神で、自己発揮する 生徒を育てることが使命です
第47回(平成28年度)優秀団体賞 岡山大学教育学部附属中学校
身近なものから独創的なアイデアを生み出した6名の入賞者と、理科担当の中倉教諭(左端)、梅原副校長(右端)
身近なものから独創的なアイデアを生み出した6名の入賞者と、
理科担当の中倉教諭(左端)、梅原副校長(右端)

創立当初から貫いてきた、主体的に学ぶ姿勢

 全国28,984件、応募団体数304団体を集め、例年通り盛り上がりを見せた第47回市村アイデア賞。その中で、優秀団体賞、および個人賞で6名が入賞した岡山大学教育学部附属中学校(以下、附属中)を訪問しました。
 附属中は、昭和22年に官立として開校し、平成29年には創立70周年を迎える伝統ある中学校です。岡山大学教育学部附属として、幼・小・特別支援学校を含む学校園の一角を担い、今も500名以上の生徒が日々学業に励んでいます。そんな附属中の特色として挙げられるのは、岡山大学教育学部との連携です。大学の持つ幅広い知見や研究成果を生徒たちに還元し、将来、社会に貢献できる人材育成と教育研究を使命としています。平成28年度からは、新しい取り組みとして、これまでの進路学習に4つの体験学習を加え、キャリア教育プログラムを見直しました。一学年次はまず自分を知る時期とし、三学年次におとずれる具体的な進路決定の時を見据え、二学年次の1年間を通じて4つのプログラムを一通り体験、自分の将来を切り拓いていく生徒の育成を促すものです。
 「本校は、創立当時から自啓学習という言葉で、教えられる姿勢の授業ではなく、自らが学ぶことを教育理念としていました。教科教育を中心としながら、自主的に学ぶ姿勢を貫いてきたことが、ひとつの大きな特長だと思います。今回のキャリア教育プログラムも、生徒が卒業生である職業人に学ぶ会や、岡山大学への訪問といった体験学習を通して、人生経験というキャリアを積み重ねて欲しいという狙いがあります。ついつい学力偏重になりがちな世の中で、基本に立ち戻った時に、生涯にわたって学び続ける主体的学習者の育成には、学びの経験を積み重ねた方が良いと感じてたどり着つきました」と、梅原信芳副校長は語ります。

卒業生や地元からも愛される歴史ある校舎
卒業生や地元からも愛される歴史ある校舎

市村アイデア賞は、自由で多角的な発想を試す絶好の機会

 市村アイデア賞へ20年以上前から応募を続け、これまでにもたびたび受賞実績がある附属中では、本賞は生徒たちの発想力を養う絶好の場となっています。発想やひらめきを授業の中に持ち込んで、互いの考えを交流させながら、アイデア案を作り上げていきます。その後、担任教諭とのディスカッションを繰り返しながら、夏休みを通して計画を練り、休み明けにはアイデア提出というプロセスが、一学年次から三学年次まで毎年経験値として積み上げられていきます。「ひとりに3回の応募チャンスがありますが、1年生は頭が柔らかく発想力が豊かで、身近なことに気づきます。提出作品の傾向も、身の回りのものからヒントを得ているものが増えているようです。今はインターネットが普及しているため、検索した情報だけで作品のアイデアにたどり着くこともできます。しかし、普段の生活でもう少しこうだったらいいのに、とか、こう改善したら使いやすいのに、という部分を大人の視点ではなく中学生の視点で気づくことが大事だと、生徒には話しています」と、理科担当の中倉智美教諭。さらに、それが自然の中から課題を見つける発想になっていくとのこと。附属中の理科研究では、国立教育政策研究所の指定校として生徒が主体的に学習に取り組めるように、自然の事物・現象の中から課題を設定し、仮説を立て、観察・実験を行い、結果に結びつける探究的な学習活動を中心に据えています。総合的には、この学習法が理科だけにとどまらず、日常生活の中でも、また社会に出てからも活用できる力を育てることになると考えられています。

仮説、検証、改良の流れが多くの優秀作品を生み出す

 附属中では、本賞を“自然の中から課題を見つける発想力を培う場”と位置づけ、全学年の生徒に参加を必須としています。今回も、意欲と工夫に満ちた作品が多数応募され、その中から6名の生徒が入賞しました。その発想の一端を聞いてみました。
自分は忘れっぽいので肌に貼る書けるシールを考えた。痛くないようテーピング製品を活用した。(1年生)
毎日の自転車通学で膝の日焼けに悩んで膝カバーを思いついた。布の伸縮性や通気性の調整が難しかった。(1年生)
母親がコロコロの紙を剥がすのに苦労していた。耳を付け、形状と枚数表示で使いやすいものにできた。次はペットボトルを使って作品を作りたい。(1年生)
時間経過が分かるメモパッドを発案。着物の染料を参考にツユクサの退色の性質を活かした。次回も性質から調べて作品づくりに役立てたい。(2年生)
古紙のトイレットペーパーは剥がしにくくて、ケースを改良。手が乾燥する祖母も喜んでくれた。初めての参加で考える方に時間がかかった。(1年生)
図鑑など大きい本にも対応できるブックエンドを制作。プラスチックをしならせ工夫した。将来はロボット関係の仕事に就きたい。(1年生)

 附属中の生徒が多くの作品を生み出せるのは、仮説、検証、また改良という流れが、日々の教育で徹底されているからだと感じました。「次回はさらにバリエーションに富んだ応募作品が出せれば」と語る中倉教諭の情熱が、生徒の励みとなるに違いありません。

生徒たちの自主レポートの作成が多様な課題解決力を育んでいる
生徒たちの自主レポートの作成が多様な課題解決力を育んでいる

どれもひと工夫が感じられる作品ばかり
どれもひと工夫が感じられる作品ばかり

自主レポートに表れる教育の成果、養われる未来への力

 長い歴史の中でも変わることなく、生徒たちが主体的な学習者になるという姿勢を貫いてきた附属中。これまで以上に生徒や教育に貢献するため、未来の目標を見据えています。「附属学校の存在意義として、今後の教育を研究しながら実践を積み重ね、先行して示していく使命があると思います。これからも時代は変わって課題も変化します。ただし課題解決をする力は普遍的。そこで科学の力は基礎的な能力になる。その学びからどんな課題にも立ち向かえる解決力を持った生徒を育てていきたいですね」と、梅原副校長は語りました。取材後、廊下で目にしたのは無数に貼られた生徒たちのレポート。教科を問わず、白紙の状態からすべてを自分で決める、これこそがまさに自主自律の教育の成果であり、未来の課題に立ち向かえる力だと実感しました。

教育の理念を熱く語る、梅原信芳副校長と、理科担当の中倉智美教諭
教育の理念を熱く語る、梅原信芳副校長と、理科担当の中倉智美教諭

(取材日 平成29年2月16日)