市村産業賞

第46回 市村産業賞 本賞 -01

バリウムフェライト磁性体を用いた大容量データテープの開発と 量産化

事業経営者 富士フイルム株式会社
代表取締役社長・COO  中嶋 成博
技術開発者 同 社 R&D統括本部 記録メディア研究所
所 長  野口 仁
技術開発者 同 社 同本部 知的財産本部
シニアエキスパート  斉藤 真二
技術開発者 同 社 同本部 記録メディア研究所
研究マネージャー   萬代 俊博

開発業績の概要

 近年、インターネット・モバイル機器の普及に伴いオンラインビジネスやソーシャルネットワークが発展し、ここから生み出されるビッグデータは、2020年には40ゼタバイト(1兆の10億倍)になると予想されている。また、宇宙や気象、創薬、資源探査、エンターテイメントなどの各方面で蓄積されるデータ量も急速に拡大している。このような状況において、記録保持に電力が不要であり優れた長期保存性能を有すること、ハードディスクドライブと比較して媒体のビット単価およびシステムのランニングコストが安価であること、災害対策のためのオフサイト保管が可能であることを特徴とするデータテープへの高容量化が切望されていた。
 受賞者らは、データテープ高容量化の技術的限界を打ち破るためのキー技術として、これまで採用されてきたメタル磁性体(MP)に代わる新たな磁性材料であるバリウムフェライト(BaFe)磁性体の20nmサイズへの微細化を達成した。あわせて本超微粒子磁性体を一次粒子化する均一分散技術、分散された塗布液を50nm厚で均一に塗布する磁性層均一薄層化技術を開発し、大容量データテープの製品化に成功した(図1)。
 本技術開発により、従来技術では限界に近づいていたデータテープの大幅な高容量化に成功し、耐久性・長期保存性についても高い性能を達成した。更に本技術は、高速・広幅・連続生産に適した塗布型で開発され、データテープの長所である低コスト化も実現している。現在、本技術で開発されたリニアテープはIBM社やOracle社などの最新システムで採用され、国内外で広く使用されている。同技術の発展型として1巻当たり35TB相当の記録容量を達成できる技術検証も行っており、今後の更なる高容量化も実現可能である(図2)。日本発の当技術により、多くの産業を支え、世界中の人々の安全で安心できる快適なICT社会の実現に寄与している。

図1 図2