市村産業賞

第48回 市村産業賞 貢献賞 -05

均一強冷却を用いた高張力厚鋼板の高精度・高能率製造技術の開発

技術開発者 JFEスチール株式会社 東日本製鉄所 京浜地区 厚板部
部長 平田 直人
技術開発者 同社 スチール研究所 研究企画部
部長 中田 直樹
技術開発者 同社 東日本製鉄所 京浜地区 厚板部
主任部員 田村 友和
推  薦 一般社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 鋼材を高強度化するとそれを使ってできるもの、例えば船舶や高層建築物などを軽量化・大型化することができるので、高張力厚鋼板(ハイテン材)の需要は急激に増大している。
 本開発が対象とする厚鋼板は、加熱炉で鋼片(スラブ)を加熱し、圧延機でリバース圧延をしながら所定サイズまで熱間圧延して製造される。一般材の圧延が1000℃前後で行われるのに比べ、ハイテン材の制御圧延では850℃程度まで温度を下げて圧延する必要があるため、温度調節のための待ち時間(圧延機の空き時間)が発生し、生産能率が低いことが課題であった。この「温度調節による制御圧延材の生産性低下」は、これまで決定的な解決方法がなく、これをブレークスルーする技術が求められていた。
 受賞者らは圧延機直近での均一強冷却および圧延と冷却の同期化の実現により、長年の課題を解決するハイテン材の高精度・高能率製造技術を開発し、世界で初めて実用化した(図1、2)。
 本開発の設備では、大流量による強冷却と自己水切りによる均一冷却の両立が可能となった。また、圧延中の鋼板が衝突して設備が破損するのを回避するため、移動退避機構の導入および保護プロテクターの設置により、設備保全性にも優れた構造とした。さらに、圧延中および冷却中の鋼板内部の温度変化を正確に把握するため、精度の高い温度計算モデルと冷却制御ロジックを開発し、最適な冷却条件を自動で設定できるようにした。これはこれまでの常識を打ち破る画期的なハイテン材製造技術である。
 本開発により、ハイテン材の生産能率を最大で25%向上させ、さらに製造プロセスで10%程度の省エネとCO2削減を達成した。その累計生産量は180万トンにのぼる。高品質のハイテン材を低コストで、大量かつ安定に供給することが可能となり、船舶や橋梁、高層建築物の軽量化・大型化に寄与し、経済発展と地球環境保全に技術で貢献できたことの意義は大きい。また、厚鋼板製造ラインに2つのオンライン強冷却設備と持つことができ、自由度の高い冷却が可能となり、新機能材の開発にも成功した。

図1