市村産業賞

第49回 市村産業賞 貢献賞 -04

耐熱モータ用重希土類フリー高エネルギー磁石の開発と実用化

技術開発者 株式会社 東芝 技術統括部 研究開発センター 機能材料ラボラトリー
研究主務 堀内 陽介
技術開発者 同社 同統括部 同センター 同ラボラトリー
研究主幹 桜田 新哉
技術開発者 東芝マテリアル株式会社
材料部品事業 事業推進責任者 岡村 正巳
推  薦 一般社団法人 電気通信協会

開発業績の概要

 省エネルギー・地球温暖化防止への要求が世界的に高まる中、電気自動車やハイブリッド車、風力発電機は今後大幅な需要拡大が見込まれている。これらに使用される駆動モータや発電機向けの磁石には、ジスプロシウムなどの重希土類を添加して耐熱性を高めたネオジム磁石が一般に使用されている。しかし、重希土類には資源の偏在や供給不安定といったリスクがあるため、重希土類フリーで高い最大磁気エネルギー積((BH)max)(B:磁束密度、H:磁界)を持つ耐熱型高性能磁石の開発が切望されていた。
 そこで耐熱性に優れ、ネオジム磁石に次ぐ高い(BH)maxを持つサマリウムコバルト磁石に着目し、鉄の高濃度添加による(BH)max向上に取り組んだ。従来、高鉄濃度組成では保磁力や減磁曲線の角型比が低下する問題があったが、独自の熱処理による組織制御技術を新規に開発してこれらの課題を克服、サマリウムコバルト磁石で過去最高の(BH)max=280kJ/m3を室温で実現した。さらに、本技術を量産プロセスに適用することにより、265-275kJ/m3級の量産磁石を開発した。本開発磁石は、重希土類フリーであると共に、耐熱モータの実使用温度領域である140℃以上において、耐熱型ネオジム磁石を上回る(BH)maxと保磁力(耐熱性の指標)を有する世界初の磁石である(図1)。
 本開発磁石は一部の鉄道車両の駆動システムに搭載され、2015年2月より営業運転に供せられている。今後は、ハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などへの適用拡大が期待できる(図2)。本技術によって、重希土類を使用した高性能磁石の供給リスクを回避し価格高騰の抑止力となることが期待され、経済的、社会的意義は極めて大きい。

図1
図2