市村学術賞

第47回 市村学術賞 貢献賞 -03

バイオリファイナリーの実現に向けた多糖分解酵素の渋滞解消

技術研究者 東京大学 大学院農学生命科学研究科
准教授 五十嵐 圭日子
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 「バイオリファイナリー」とは、生物資源(バイオマス)を原料としてバイオ燃料や化学品原料を生産するための技術を指し、化石資源の少ない我が国において、持続的かつ循環型社会を構築するために今後欠かすことができない技術である。現在、バイオリファイナリーのターゲットとなっているバイオマス原料の主成分は、ほとんどがセルロースやキチンなどの多糖であるが、それらを化学的に分解して原料となる糖を得る(糖化する)ためには、これまで高温や強酸などを用いなければならなかった。しかも、このような化学処理では副生成物も多く発生してしまうことから、反応選択性が高く常温常圧で処理ができる酵素によるバイオマス由来多糖の分解・変換が望まれている。しかしながら、酵素を用いるプロセスは、化学的反応と比較して反応速度が著しく遅く、結果的に大量の酵素が必要になることがボトルネックである。
 受賞者は、バイオマス由来多糖を分解する酵素の生化学的実験および単分子観察から、分解酵素が多糖の表面で分子レベルの「渋滞」を起こしていることが、分解速度の遅さにつながっていることを突き止めた。その結果から、酵素の反応速度を速めるよりも、いかに基質表面で渋滞を起こさないか、いかに渋滞を引き起こしている酵素分子を基質表面から遊離させるかが重要であることを示した。さらに、酵素糖化に適した新しい基質の前処理条件を見いだして特許を取得するとともに、既存の方法とは全く異なるバイオマスの糖化に適した酵素の選抜法を見いだした。さらにこのような概念が、セルロース系のバイオマスだけでなく、キチン等のバイオマスにも適用できることを明らかにした。

図1
図2