市村学術賞

第50回 市村学術賞 功績賞 -02

超省電力スピン制御技術の開拓と応用展開

技術研究者 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域
スピントロニクス研究センター 研究チーム長 野 隆行
技術研究者 京都大学 化学研究所 材料機能化学研究系
助教 塩田 陽一
技術研究者 大阪大学 大学院基礎工学研究科
准教授 三輪 真嗣
推  薦 国立研究開発法人 産業技術総合研究所

研究業績の概要

 AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、ASV(先進安全自動車)などの新技術が急速に身近なものになるにつれて、それらを構成する電子デバイスの消費電力低減は益々重要な課題となっている。その1つのアプローチとして注目されているのが電源を切っても情報を保持可能、つまり待機電力が不要な"不揮発性メモリ"である。我々は電子が有する磁石としての性質(スピン)を利用して新機能電子デバイスの創製を目指す「スピントロニクス」技術により、不揮発性固体磁気メモリ(MRAM)の開発に取り組んでいる。しかしながら現状のMRAMでは、情報の書き込み(スピン方向の制御)に電流通電を必要としているため、抵抗損失による不要な電力消費が駆動電力低減の弊害となっている。
 受賞者らはこの課題を抜本的に解決するために、電圧による新しいスピン制御技術の開発に取り組んできた。その結果、鉄(Fe)などのありふれた金属磁石を数原子層オーダーまで超薄膜化し、誘電層を介して電圧を印加すると"磁気異方性"と呼ばれる磁化の向きやすい方向を決める物性を制御可能であることを見出した(図1)。さらにこの技術をMRAMの基本メモリ要素である強磁性トンネル接合(MTJ)素子に導入するとともに、電圧による磁化反転制御や磁気共鳴運動の励起など、スピンデバイスの基盤となる技術を世界に先駆けて実現した。また、従来の電流制御型と比較して約2桁の低消費電力化が可能であることを実証した。これらの成果はImPACTプログラム「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」の発足に繋がり、現在は電圧制御型MRAMの実現を目指した橋渡し研究としてスケーリング実証に向けた新材料探索や物理機構解明、メモリ安定動作の実証等に産学官連携体制で取り組んでいる(図2)。

図1

図2