市村学術賞

第51回 市村学術賞 功績賞 -02

医療高分子の開発と生体親和性発現機構の解明

技術研究者 九州大学 先導物質化学研究所
教授 田中 賢
推  薦 九州大学

研究業績の概要

 合成高分子が血液などの生体成分に接触すると、異物反応が進行し不具合が生じる。病気の治療や超早期診断など、高齢社会においてニーズの大きい健康・医療技術や製品の開発には、製品性能を決定付ける製品の表面を形成する医療高分子の安全性と機能の向上が欠かせない。
 受賞者らは、合成高分子であるpoly(2-methoxyethyl acrylate)(PMEA)が、中間水(材料表面に緩やかに結合した水分子)を豊富に含む材料表面を作り出し、この中間水がタンパク質や細胞などの吸着を防ぐことを示してきた。PMEAコーティング技術は、研究支援機器、医療機器として実用化され、厚生労働省の認可を受けている。例えば、PMEAコーティング人工心肺は世界No.1のシェアを取り続けているなど、我が国発の世界に誇る実績を有している。これにより、我が国の研究開発総合力のプレゼンス向上に貢献した。
 一般的に、合成高分子が生体に接触すると、直ちに水分子が材料表面に吸着する。吸着した水分子は、以下の2種類に分けられる。材料に強く結合し分子運動性が低下した不凍水と材料に弱く結合し分子運動性が高い自由水である。さらに、自由水と不凍水の中間的な性質を示す中間水が形成される。この中間水が生体親和性の発現に大きな影響を与えることを明らかにし、中間水に着目した生体親和性材料のスクリーニングにつながる「中間水コンセプト」を世界で初めて提案した。この中間水は、生体親和性を示す合成高分子と生体分子に共通して観測されることを見出した(図1)。
 また、受賞者らは、独自に設計したPMEA誘導体により適切な中間水量を与えると、血球細胞などの血栓を作る生体成分の吸着は抑制されたまま、がん細胞が選択的に接着することを見出し、基本特許を取得した(図1)。がん細胞をダメージレスに分離回収可能なので、分離回収した癌細胞を培養し、抗がん剤の評価が可能となった。受賞者らが見出した合成高分子への生体成分の吸着性を制御可能な中間水のコンセプトは、新世代医療高分子開発に大きく貢献した。

図1