市村学術賞

第52回 市村学術賞 本賞 -01

超イオン伝導体創成と全固体電池開発

技術研究者 東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 菅野 了次
推  薦 東京工業大学

研究業績の概要

 受賞者は、固体においてイオンが高速で拡散する材料「超イオン伝導体」の新規開拓に携わり、固体でありながら液体を上回るイオン伝導率を有するという、従前の科学的常識を覆す革新的なリチウム超イオン伝導体LGPS(リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄で構成される材料)とその関連物質を創成することに成功した。さらに、創成した超イオン伝導体LGPSを固体電解質として用いた全固体電池が、幅広く実用用途に供されている液体電解質を用いたリチウムイオン電池を大きく凌駕できる蓄電・高出力特性を有することを世界で初めて実証する成果を得た。この成果は、純粋サイエンスの観点からみた斬新さと将来性の提示に留まらず、世界中で全固体電池の開発競争を開始させることとなった。
 また、既存の電池では社会が期待する電動車両、IoT電源などの来るべき電動化社会へのニーズに耐え得る実力が疑問視されるなかで、従来の電池デバイス性能を遥かに凌駕する全固体電池のインパクトのスケールを社会的といえるレベルまで格上げした。全固体電池の実用化開発を目的とした国を挙げてのプロジェクトが立ち上がるとともに、国内外の企業で実用化に向けた熾烈な開発競争が繰り広げられるに至り、さらには全固体電池の標準化規格策定の動きも始まるなど、受賞者が2011年に創出した材料が引き起こした影響力は全世界に広がっている。
 基礎研究者である受賞者は材料研究からデバイス製造・事業化への橋渡しを果たした。全固体電池の実現は多大な社会・経済的効果が期待でき、世界の蓄電デバイスの状況を一変させるものである。全固体電池は、日本発の技術として日本での実用化が諸外国に先駆けて試みられているとともに、エネルギーを全て固体で形成された蓄電デバイスで蓄えるという、全く新たなエネルギー貯蔵のジャンルを切り拓いた。

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