有機発光材料は、蛍光染料、蛍光顔料、色素レーザー、波長変換フィルム、細胞染色などの蛍光色素として利用されてきたが、近年のエレクトロニクス産業の発展とともに有機ELに代表される発光素子への応用が進んでいる。しかし、有機発光材料は、無機発光材料と比較して発光スペクトルが幅広であり、ディスプレイに用いる場合は、その多くの部分を光学フィルターや光学干渉でカットする必要があるため、電力効率や輝度が大きく低下するという問題があった。 受賞者は、多環芳香族化合物の骨格内の適切な位置にホウ素原子と窒素原子を導入し、その多重共鳴効果を利用することで、スペクトルの幅広化の原因となる励起一重項状態から基底状態への電子遷移と炭素-炭素結合の伸縮振動とのカップリング(振電相互作用)を抑制することに成功した。この分子設計の下で2016年に開発した発光材料「DABNA」は、スペクトル半値幅25-30nmの高色純度の青色蛍光(図1緑)と100%近い蛍光量子収率を兼ね備えていることから、スマートフォンやテレビなどの有機ELディスプレイの青色発光材料として社会実装が進んでいる。DABNAを用いたディスプレイは、従来の発光材料(図1赤)を用いたディスプレイと比べて電力効率と輝度が向上するのみならず、目に有害なブルーライトの低減など優れた特性を有しており、その普及に大きく貢献している。また,2019年に開発した「ν-DABNA」は,カドミウム系量子ドットやハロゲン化鉛系ペロブスカイトなどの無機発光材料を凌駕する半値幅14-18nmの超高色純度の青色蛍光(図1青)を示すことに加えて、優れた熱活性化遅延蛍光特性を有しており、有機ELディスプレイの更なる高性能化が期待できる。現在、一連の研究成果を指針として、国内外の大学・材料メーカー・ディスプレイメーカーにおいて盛んな研究開発が行われている。
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