市村学術賞

第56回 市村学術賞 本賞 -01

量子アニーリングの創出と展開

技術研究者 東京工業大学 国際先駆研究機構
特任教授 西森 秀稔

研究業績の概要

 数多くの可能性の中から最適な答えを探す組合せ最適化問題は、宅配便の経路選択、勤務シフト作成、投資ポートフォリオ構築などさまざまな社会課題に関わる重要な問題群である。これらの解決には、これまで主に熟練者の経験と勘に頼る場面が多かったが、慢性的な人手不足などの要因もあり、系統的な手法の構築が差し迫った課題となってきている。受賞者は、組合わせ最適化問題の革新的な解法として、量子力学の原理を応用した量子アニーリングを創出し、その展開において長年にわたって世界をリードしてきた。
 量子アニーリングでは、量子効果を用いて多数の解の可能性すべてを同時に表現して並列的に処理し、その中から最も安定なものを最適解として抽出する。この方式を実装した装置が市販されており(図1)、北米や欧州の企業や研究所に設置されているだけでなく、クラウドを通じて日本を含む世界各地から利用されている。この装置を用いて、理論的な研究のみならず社会課題の解決に向けての実証実験、一部では産業現場での実装が進んでいる。例えば、ロサンゼルス港でのコンテナ搬送クレーンの動作の最適化に、本技術を中核に組み込んだシステムが実運用されるなど(図2)、最先端技術による社会の変革を先導する動きが始まっている。また、最適化問題に加えて、物質の性質を探索する量子シミュレーションへの適用も近年急速に進展してきており、受賞者はこの方面においても重要な寄与を残している。
 量子アニーリングの一層の効率向上を目指して日米欧で量子アニーリングのハード及びソフト開発の国家プロジェクトが遂行されており、今後のさらなる発展が期待される。

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