市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -02

ナノワイヤを用いたリキッドバイオプシー技術の開発

技術研究者 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
教授 安井 隆雄

研究業績の概要

 研究の背景:日本をはじめ、世界中の多くの国で高齢化が進む中で、WHOはがんなどの生活習慣病の克服の必要性を唱えている。生活習慣病で最も重要視されているがん克服においては、効果的ながんの発症診断・病態進行予測可能な技術開発が特に重要と考えられている。リキッドバイオプシー(液体生検)は、組織生検と比較してきわめて低侵襲に検体を採取して解析ができること、長期追跡にかかせない繰り返し・頻回検査が容易に実施可能であること、などの利点がある。これら特徴より、がん検知を行うリキッドバイオプシーは世界中で活発に研究開発が行われている。
 研究技術の概要:受賞者はがん克服を志向し、尿によるリキッドバイオプシーを開拓すべく、ナノワイヤによる尿中細胞外小胞の網羅的捕捉・解析技術を開発した。細胞外小胞は、内部に含有される分子(microRNA等)を他の細胞に受け渡す機能を持つ細胞間情報伝達物質であり、がん進展にも関連している物質でもある。また、Craif株式会社の共同創業による非侵襲がん早期検知法の実用化“miSignalのサービス提供”も実現した(図1)。
 特徴と効果/実績:受賞者は、酸化物ナノワイヤを微細流路内に精緻に制御するナノデバイス作製技術開発を経て、尿中1 mL中の細胞外小胞99%以上捕捉と1300種類以上の尿中microRNAの発見という世界初の成果を達成した。さらに、この1300種類以上のmicroRNA発現パターンを用いることで、がん種によって尿中の細胞外小胞microRNAの発現パターンが異なることを見出し、がん患者の尿と非がん患者の尿を尿量1mLにて識別することに成功した。受賞者の研究の意義は、世界で初めて、尿1mLより1300種類以上のmicroRNAを発見したこと、その発現パターンより高確度でがん検知が可能になったこと、さらに、がんサブタイプ検知も可能であったことにある。

図1