市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -03

伝統と先端と異分野の融合による紙の機能革新

技術研究者 大阪大学 産業科学研究所
准教授 古賀 大尚

研究業績の概要

 研究の背景: 近年、マイクロプラスチックや電子廃棄物等による環境汚染が深刻化している。また、SDGsに係る世界的な潮流も相まって、生分解性・生体適合性・持続可能性といった特長を持つ「紙」の存在意義が高まっている。しかし、紙は2000年の伝統を誇るが故に長年用途が限定されており、紙の歴史を塗り替える「機能革新」が求められる。
 研究技術の概要: 受賞者は幅3-50 nmの木質ナノセルロースでつくる透明な紙「ナノペーパー」をナノ構造体と捉え、伝統的な紙抄き技法やナノセルロースの表面化学特性を応用した「ナノ構造設計」と「材料設計」、及び、伝統的な炭化技法を応用した「分子設計」を自在に組み合わせる機能創発技術を構築し、様々な革新的機能紙を創出した(図1)。
 特徴と効果/実績: まず、最先端レベルの性能に加えて環境・生体調和性も兼ね備えた「紙の電子デバイス素子(透明導電膜、アンテナ、キャパシタ、メモリ、生体信号センサ等)」を世界に先駆けて創出した。また、3次元構造や微細配線構造、及び、電気特性を幅広く制御可能な「紙の半導体」を創出し、センサや発電デバイス応用にも成功した。さらに、「極微量体液からのエクソソーム捕集と長期室温保存を実現する紙」を開発し、簡便・無侵襲かつ日常的な健康診断に展開している。これらの成果は、伝統的な農学材料である紙の機能革新によって工・医学分野の最先端にイノベーションをもたらすものである。また現在、実用化に向けて企業と共同研究を進め、関連技術の一部は製品化にも繋がっている。学術的にも産業的にも社会的にも波及効果の大きな研究成果である。

図1