B型肝炎は、ウイルス(HBV)感染によって引き起こされる肝臓病で、患者数は日本人の約1%の150万人、全世界では4億人とも言われている。現在の治療薬ではHBVは身体から完全に除くことができず、慢性感染患者の10〜20%の人が慢性肝炎へと移行し、肝硬変や肝がんを発症する場合もある。HBV慢性感染患者の診断は、血液中のウイルス遺伝子を構成する核酸(DNA)の量の測定により行われている。しかし、感染患者血中には、ごく微量に存在する感染力のあるウイルス粒子(Dane粒子)の他に、感染力のない空粒子などが大量に混在している。従来法はこれら全部を一括して定量するため、Dane粒子の測定精度に課題があった。
本開発では、感染力のあるウイルスのDNA(HBV DNA)量を高精度かつ安全に測定する装置開発を行う。まず、Dane粒子の外殻タンパク質の"糖鎖"の特長を見分けるプローブを用いて、患者血中からDane粒子を選別・濃縮する。粒子に含まれるHBV DNA量は、高感度かつ測定レンジが広いリアルタイム PCR法により測定する。さらに、測定チップと装置を閉鎖型にし、測定者が測定試料の前処理から測定までウイルスに非接触で扱えるようにして安全性を確保する。実用上の利便性向上のため装置全体の小型化も目指す。
本開発により、B型肝炎をはじめ感染性の高いウイルスを正確かつ安全に測定可能な装置が実現し、感染症の研究用途での応用・活用が期待される。また、将来的に臨床用途に展開されると、早期診断による適切な慢性感染症患者の治療計画の策定や経過観察など、国内外を問わず医療分野での大きな貢献につながることが期待される。
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