2012年12月の笹子トンネルの天井板落下事故を契機に、劣化したインフラ構造物(トンネル・橋梁・道路等)が崩落するなどの事故の発生が起こり始めている。したがって、高度経済成長期に建設された数多くのインフラ構造物の老朽化に対する安全確保が注目されている。政府は平成26年7月に道路法の一部を改正し、全国の橋梁(約70万橋)・トンネル(約1万本)に対し、インフラ管理者による5年に1回の近接目視点検を義務付けた。しかし、打音検査結果や、ひび割れの本数・幅の情報から劣化診断を行う為の高度な専門性が点検者に要求される現状の点検負荷は大きく、それを解消しうる技術革新が望まれる。
本件では、インフラ構造物の多くを占める鉄筋コンクリートを対象に、その劣化度合いを、近赤外光を用いて非接触・非破壊で計測するシステムを開発する。具体的には、コンクリート表面に付着する塩化物量・水分量を、図1に示す独自(準共通光路型)の近赤外分光系にて計測できるシステムを構築する。本技術の特徴は、可搬可能な小型・頑健さ、光量の高効率活用による高感度さ、および独自の画角補正方式、低コストである。また、塩化物量及び水分の浸透を解析し、劣化を精度良く予測する技術(図2)も独自のモデル式に基づいており、その推定結果を撮影画像に重畳して表示することが可能なシステムの開発を目指す。
本開発により、インフラ構造物の検査において、近赤外分析による計測・解析が可能となれば、専門家ではない測定者でも計測・診断が可能となり、現状、点検に要する労力及びコストが大きいという問題を緩和することができる。さらに、測定データの蓄積による測定技術と劣化予測技術の改善が見込まれ、技術の進化がいっそう促され、より高精度な計測・推定への進化が始まる、そのようなインフラ構造物の劣化事故の抑制に一助をなすことが期待される。
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