農作物の開発、生産において、「良味性」と「耐病性」といった、1品種では達成が困難な性質を組合せで実現しうる方法として、接木は果樹・野菜で広く用いられており、トマトなど主要品目では大半が接木苗から生産されている。接木苗は従来、職人による手作業で、台木と穂木を切断し、切断面同士を接木クリップ等の支持具を用い密着させることで、製作されてきているが、各工程にノウハウが存在するため汎用性が低く、かつ人件費・輸送費を要していた。人の手の代替を図る接木ロボットも開発されてきたが、 大型で高額なこと、装置ごとに適応品種が限られる、物理的な設計制約上、幼苗へ適用できないことから、あまり普及していない。
技術開発者は、樹脂製の小さなチップ内で植物体を発芽させたうえで、幼苗の段階でチップごと植物体を切断・分離し、結合することを着想した。種子が発芽し成長方向を整えるための空間(種子ポケット)と、発芽した幼植物の茎および根が伸長するための流路からなるチップを用い、更にチップをアレイ化することで、チップ上への播種(種まき)から、発芽、切断、アセンブリ(接木)まで、一連の工程の全自動化が可能となる上、輸送コストも大幅に低減できる。本助成事業では、歩留まりよく、実用的な自動生産を可能とするため、機械による取扱が容易で、生体適合性が高く、かつ低コストなチップ材質の選定、及び、接木に適した部位がチップの切断部に当たるように植物体の生育が一定となるようなチップ形状と、生育条件の検討とともに、ユーザーが使用する様々な条件においても安定して性能を発揮できる一体的な自動接木装置の設計試作、評価を行う。
国内接木市場は果菜類作付け本数7億3,000万本(年間)のうち、農家向け購入苗・家庭園芸向け接木苗合わせた2億6,000万本(350億円)である。野菜の生産コストの削減が期待できるとともに、将来的に新しい品種の開発と迅速な普及に貢献することが期待され、我が国農業の持続的な成長に大きく寄与する。また世界種苗市場規模は4.5兆円、うち野菜苗は4,000億円と言われる。この技術の国際展開により、伝統的に我が国が得意としてきた”接木”技術を活用する、国際的な接木苗市場の創出も期待される。
|