新技術開発助成

東北の地から高精度計測機の スタンダードを広めて、復興に貢献したい

「FSFレーザによる高精度な1軸距離計測装置の試作開発」
東日本大震災復興支援 新技術開発助成2012(平成24年度)

株式会社3Dイノベーション 代表取締役社長 原 武文さん
原 武文 社長(右)と、玉虫功郎 技術主任
原 武文 社長(右)と、玉虫功郎 技術主任

中距離における高精度の三次元計測を可能に

 立体的なものをデータ化するために、直接対象物に触れずに計測する方法は「三次元計測」と言われ、近寄れない場所や触れない物でも測定できるため、様々な場所で活用されている。製造業の現場では、接触型三次元計測器や3Dカメラ方式に加え、レーザによる非接触型三次元計測器など、原理の異なる多様な三次元計測装置が導入されている。一方で、現在主流の装置の性能には、「1m以下の近接した距離で数μmの精度」か、もしくは「数10m離れた距離で数mmの精度」という隔たりがある。さらに、「製品の曲面形状の増大による、面の歪みや反りの定量的評価」、「複雑形状の製品で増加する検査項目の効率的評価」といったクライアントの要求において、中距離(数m〜10m程度)での高精度計測の需要増に十分に応えられていない。一方、3Dイノベーション社の技術は、「FSFレーザ(周波数シフト帰還型レーザ)」と言われ、共振器内の周波数が時間とともに変化する特殊なレーザを対象物に照射、連続往復でその反射光と照射レーザのビート信号を検出し、高精度な遠隔距離計測を可能とする。この技術によって、数m〜10mにかけての距離で、これまで実現できなかった100μm以下の測距精度を実現し、高精度の三次元データが得られる。

これまで未解明だった特殊なレーザに「 高精度距離計測」という命を

 そもそもレーザ(Laser)とは、「光の誘導放出による増幅」を意味する英文の頭文字からとった名称で、指向性(ビームが直進)、コヒーレンス(干渉し揃いやすい)、単色性(波長幅が狭い)を特徴とする光である。高いコヒーレンスを利用してレーザビームを細く収束させ、単色のレーザ波長を一定にすることで、精巧な定規のように利用できる。 FSFレーザ技術は、東北大学電気通信研究所の伊藤・四方研究室と、計測メーカーの老舗・(株)光電製作所の共同開発である。しかし、研究当初は名前もなく、カオスレーザやモードレスレーザなどと呼ばれていた。その現象は1960年代に見いだされていたものの、詳しい性質や構造は解明されていなかった。原社長は、「これは、コヒーレンスないわば一本の線で、とても光波が揃っている状態。モードレスと言われたのは、モードを変えるような成分がないと思われていたから。カオスレーザとは、今の状態と時間経過後の状態がランダムで予測がつかない、という意味で呼ばれていました」と語る。ところが、それを距離計測に応用してみると、距離を変えても高い精度が維持され、優れた干渉性が確認できた。“正確に距離が測れる”という結果からの、その構造や利用方法の研究が、FSFレーザ計測装置誕生のきっかけだったと言う。

基本的なレーザ(左)と、FSFレーザ(右)の構造

光周波数距離計測の原理

東北の地から高精度計測機のスタンダードを広めたい

 同社は2010年4月の創業だが、研究開発に注力しようとしていた翌年3月、東日本大震災に見舞われた。震災後には、土木建築関連の問い合わせが急増し、トンネル内の強度計測や、地滑り面の年間変位などの計測実績もある。今なお多くの地域に傷跡を残す震災だが、製造現場での精密計測用として開発した装置がその活用法を広げることにもなった。「研究室時代には数mの計測には需要がないと考えていた。しかし、クルマメーカーさんなどに会うと、距離と精度の両方を満たす既製品がないと言われた。震災後には建築物の保守・保全意識が変わった。お客様の声が新しい技術や活用法を生み出すと感じています」と原社長。現在、同社のFSFレーザ計測機は、鉄鋼メーカーに試験機を納め、一方、トンネル内部の計測にも利用されるなど、着々と活躍の場を広げている。「近い将来にはスタンダードな量販品で、東北の復興に貢献したい」と意気込む3Dイノベーションの存在感は、今後も増していきそうだ。
(取材日 平成28年8月25日 宮城県仙台市・東北大学)

同社の製品「光遠隔三次元計測システムOCM-A」   エンジンブロックやミッションケース等の、大型で複雑な形状も見通し範囲内を一括計測できる。  

3Dイノベーション社の拠点、東北大学構内の東北大学連携インキュベータ(T-Biz)ビル
3Dイノベーション社の拠点、東北大学構内の東北大学連携インキュベータ(T-Biz)ビル

(株)3Dイノベーション プロフィール

国立大学発のベンチャー企業として2010年4月に創業。東北大学で長年研究されてきた「周波数シフト帰還型レーザによる距離計測技術」を、社会に貢献できる実用的な技術として提供するべく、計測装置の開発・製作・商品化、装置のレンタル、計測サービス、研究開発サポートなどの事業活動を進めている。