植物研究助成

植物研究助成 23-07

伊豆周辺に産するシソ科植物を用いた雌性両全異株性の進化に関する研究

代表研究者 兵庫県立人と自然の博物館
主任研究員 高野 温子

背景

 ナツノタムラソウ(シソ科アキギリ属)の仲間は種内に4変種が知られ、地理的に住み分けている。うち3変種は伊豆半島周辺で分布域を接している。近年日本産アキギリ属の全分類群を用いた分子系統解析が行われ、ナツノタムラソウ及び4変種は側系統群であることが明らかになった。また最近、ナツノタムラソウの近縁種で雌性両全異株性が確認されたが、標本調査の結果、ナツノタムラソウもおそらくは雌性両全異株性であることがわかった。

目的

 伊豆半島及び周辺地域のナツノタムラソウ及び3変種を用い、雌性両全異株性の進化について最近提出された、遺伝的に分化した集団が再び交配することにより雄性不稔が起こりやすくなるという説の検証を行う。もし仮説が正しければ、単一分類群のみが分布する地域よりも3分類群が分布を接する地域で、雌性不稔個体の比率が高い可能性がある。ナツノタムラソウ及び種内分類群について集団毎の性表現(雌個体頻度)を調べると共に送粉者について調査を行い、各変種間の遺伝子交配の潜在的可能性を明らかにし、上記仮説を検証する。

方法

1. 神奈川県博他で標本調査及び情報収集。ナツノタムラソウ及び変種ダンドタムラソウ、ミヤマタムラソウの調査地(各分類群につき最低3箇所)設定及び野外調査の計画策定(4-5月)。
2. 1で設定した調査地にて各分類群の性表現及び送粉者の調査(6-8月)。
3. ウスギナツノタムラソウの性表現及び送粉者の調査(7月)
4. 2.3で採取した個体を加え、葉緑体及び核DNAの複数領域の塩基配列を決定し、日本産アキギリ属の種間関係を明らかにするための分子系統解析を実施(9月―2月)。

期待される成果

1. 雌性両全異株性の進化のプロセスについて、新たな知見を提供できる。
2. 日本産アキギリ属内の種間関係が明らかになることにより、属内において両全性から雌性両全異株性への進化が何度起こったのか推定が可能である。
3. ナツノタムラソウと4変種について遺伝子交流の可能性まで含めて調査するので、側系統群であるナツノタムラソウ群の分類の再検討が進む。