植物研究助成

植物研究助成 23-10

シダ植物小葉類から探る根と茎の形態進化の解明

代表研究者 日本女子大学 理学部 物質生物科学科
助教 藤浪 理恵子

背景

 植物の分枝は見かけ上の形を決める重要な形質であり、全ての維管束植物(シダ植物小葉類と大葉類、裸子植物、被子植物)がもつ特徴である。陸上植物の進化過程において、1本の単純な軸をもつコケ植物段階から維管束植物段階へと進化したときに軸は二又状に分枝する能力を獲得した。その後、主軸の形成や軸の扁平化、有限成長化が生じて茎、葉、根の3器官へと進化したと考えられている(テロム説)。したがって、維管束植物における3器官の形態進化を知るために軸の分枝の進化過程を明らかにすることは必要不可欠であると考えられる。

目的

 現生の維管束植物のうち、シダ植物小葉類は分子系統関係で最も基部に位置し、根と茎は外生的に二又分枝する。この特徴は側根を内生的に形成する他の維管束植物とは大きく異なり、小葉類は根と茎の分枝様式を比較することが可能と考えられる。したがって、小葉類は系統的にも形態的にも根と茎の進化を明らかにする上で重要なグループである。本研究では、シダ植物小葉類の根と茎の頂端分裂組織(RAMとSAM)の構造と分枝様式を発生解剖学的・分子遺伝学的に解析し、他の維管束植物との比較から根と茎の形態進化解明を目的とする。

方法

 伊豆地域と植物研究園内に生育するシダ植物小葉類3科(ヒカゲノカズラ科、ミズニラ科、イワヒバ科)とシダ植物大葉類の各生育地で実験とサンプリングを行い、次の解析を行う。1)野外においてチミジンのアナログ物質でDNA合成S期に取り込まれるEdU(5-ethynil-2'-deoxyuridine)を小葉類と大葉類の根に取り込ませ、発生解剖学的に蛍光顕微鏡解析を行い、RAMの細胞分裂動態と分枝様式を明らかにする。2)モデル植物で知見が得られているRAMとSAMで機能する遺伝子(WOX, KNOX, CLE)を小葉類で単離し、RNA in situ hybridization 法による発現解析を行い、RAMとSAMの構造維持機構を明らかにする。

期待される成果

 研究を遂行することで、小葉類のRAMとSAMの構造維持機構が明らかになるだけではなく、維管束植物全体のRAMとSAMの分子遺伝学的メカニズムの進化の理解に対して大きな貢献になる。さらに、化石植物やデータの不足のために未だ明らかにされていない根の形態進化に関してもアプローチできると期待される。