植物研究助成

植物研究助成 23-19

蛍光寿命計測によるスサビノリの生育診断

代表研究者 木更津工業高等専門学校 電気電子工学科
教授 岡本 保

背景

 これまでの海苔養殖では、漁業従事者が病害や障害などを目視などの経験則によって状態の判断していた。しかし、より安定な生産を行うためには、これらを定量的に判断する方法が必要である。また、漁業従事者の減少と高齢化にともない、これらの診断の簡素化が求められている。さらに、可視判断ができる状態以前の早期の段階で診断する技術も求められている。

目的

 申請者はこれまでに、蛍光計測による海苔の生育診断に関する研究を実施し、病害の影響や淡水によるストレスにより、蛍光スペクトルが変化することを明らかにしてきた。ストレスによる蛍光スペクトルの変化は、アンテナ色素から光合成中心へのエネルギー移行の過程が蛍光に反映されるためであるとの見通しを得ている。そのため、蛍光寿命が蛍光スペクトルに比べて、敏感に変化すると考えられる。本研究では、様々な病害に感染したスサビノリなどの蛍光寿命計測を行い、病害などのストレスと蛍光寿命の関係を明らかにし、蛍光寿命計測によるスサビノリの生育診断技術を確立することを目的とする。

方法

 本研究では、様々なストレス下での蛍光寿命測定を行い、環境ストレスと蛍光寿命の関係を明らかにしていく。まず、あかぐされ病をはじめとした様々な病害に感染したスサビノリの蛍光寿命を測定する。また、様々な生育条件(温度、養分等)下で海苔培養を行い、海苔の蛍光寿命の生育条件依存性を検討する。窒素、リン、鉄などの海水中の栄養欠乏による影響を蛍光寿命により検討する。また、エネルギー移行のメカニズムを精密に観測するために、液体窒素温度にスサビノリを冷却して熱による影響が抑制し、蛍光寿命測定を行う。

期待される成果

 本研究で開発する技術により、可視判断ができる状態以前の早期の段階で診断が可能となる。そのため、病害の蔓延の防止が容易になり、海苔の安定生産に大きく貢献できる。また、従来の海苔養殖技術では経験則として重視されていたものが、科学的な手法で定量化が可能となり、より安定な生産につながると考えられるとともに、今後漁業従事者の海苔養殖経営に対して貢献することが期待できる。また、漁業従事者の減少と高齢化にともない、これらの診断の簡素化が求められており、その面でもこのシステムの開発は重要となると考えられる。