植物研究助成

植物研究助成 25-06

伊豆半島における海洋植物の多様性調査

代表研究者 お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系
准教授 嶌田 智

背景

 海洋植物(海藻類・ウミクサ類)は、沿岸域に生育する大型の酸素発生型光合成生物で、海洋生態系を支える重要な一次生産者である。伊豆半島には約450種の海洋植物が生育していると報告されており、1つの半島でこれほど多くの海洋植物種が生育する例は、世界でも知られていない。近年の分子データを用いた海洋植物の種多様性解析により、多くの未記載種が発見され、海洋植物はこれまで考えられた以上に多様性に富んだ生物群であることが示唆されている。また種内個体群の系統地理学的解析により、特定地域の遺伝的多様度や固有性も容易に検出できるようになった。植物研究園を活用し計4回海洋植物を網羅的に採集し分子系統解析を行ったところ、新種の可能性の高い種が複数検出された。

目的

 平成28年度植物研究助成では、検出できた新種の可能性の高い複数種とそれらの近縁種にのみ注目し、詳細な生育場所・季節消長の調査、培養実験での形態の可塑性についての解析を行い新種記載を目指す。また、本年度に引き続き比較系統地理学的解析の種数を増やし、伊豆半島に生育する海洋植物種の個体群特性を詳細に把握したい。

方法

[生育場所・季節消長の調査] 4、5、6、7、3月の計5回、植物研究園を活用し、本年度検出できた“新種”と近縁種に注目したコドラート調査と分子系統解析で、詳細な生育場所・季節消長を把握する。[培養実験] 検出できた“新種”と近縁種の培養株を作出し、光量、水温、栄養塩などを変化させた条件下で培養し、各種形態形質の可塑性や分類形質としての有効性を検証する。[比較系統地理学的解析] ミルとフクロノリに関してRADseq解析をおこない、全国の個体群(既に採集済み)と伊豆半島個体群を比較し、系統地理、多様度、固有性、普遍性などを解析する。

期待される成果

 本研究における世界中の種との比較が可能な分子同定と、培養実験による分類形質の有効性検証により、伊豆半島に生育する海洋植物の種多様性がより正確に把握できる。また、比較系統地理学的解析では伊豆半島に生育する海洋植物の遺伝的特色が世界ではじめて明らかになる。これらにより、伊豆半島という地域の価値性・重要性が再認識でき、伊豆半島の海洋生態学的研究の基盤が構築され、伊豆半島の海洋植物と環境を守り育成する研究へと発展できる。本研究の分子データによる特定地域の種および個体群の多様性を同時に解析する手法は世界的にもめずらしく、また世界各地での応用が可能かつ有用で、その波及効果は非常に大きい。