植物研究助成

植物研究助成 25-08

茶樹および近縁種のカフェイン合成酵素遺伝子の染色体における多様性調査

代表研究者 沼津工業高等専門学校 物質工学科
准教授 古川 一実

背景

 チャ(茶樹:Camellia sinensis)は葉にカフェインを含み、飲料の茶として利用される。これまで、チャおよび近縁種であるツバキ(C. japonica)やサザンカ(C. sasanqua)について、カフェイン合成能の多様性について調査を行ってきた。その結果、HPLC分析ではカフェインが検出されないツバキやサザンカの葉からカフェインの分子量を示すMSスペクトルが見られた。また、カフェイン合成酵素遺伝子(TCS1)の部分シークエンスを解析した結果、チャのイントロンに83bpのIn/Del配列があり、これが存在することによりツバキやサザンカの2種とチャを大別し、しかも偽遺伝子TCS3となることが分かった。以上より、ツバキやサザンカは、TCS1を介する主経路とは異なるバイパス経路でカフェインを合成している可能性があり、これらに関与する遺伝的な仕組みを明らかにすることで、Camellia属におけるカフェイン合成能を理解できると考えられる。

目的

 カフェイン合成能の有無が生じる遺伝的要因について明らかにするために、Camellia属植物の比較を行い、多様性を調査する。主としてTCS1配列およびカフェイン合成形質近傍マーカーを用いて種間の体細胞分裂時の染色体変異および減数分裂時の対合の様子を明らかにする。

方法

 チャおよび近縁種と種間雑種を材料として、主に以下の実験を行う。
1. TCS1配列および連鎖地図上でのカフェイン形質近傍マーカーを用いた染色体解析と種間の核型比較
2. 染色体上のメチル化シトシン検出によるエピジェネティック解析
3. ツバキやサザンカで見られたカフェインピークをLC-MSによる定量

期待される成果

 Camellia属植物の持つカフェインを合成する能力、あるいは合成しない能力を司る遺伝的なしくみが明らかとなれば、チャと近縁種との交雑によるカフェインフリーチャ品種の育成に貢献し、カフェインを好まない欧米への外貨獲得源となる。また本研究の成果は、これまで形態識別のみであった Camellia属染色体上に新たな旗を立てることとなる。染色体地図情報とシークエンス解析のデータを合わせることで、生態系におけるカフェイン形質の遺伝や進化を考察することができる。