植物研究助成

植物研究助成 26-01

海洋島である伊豆諸島における特殊な送粉様式の起源と進化

代表研究者 神戸大学大学院 理学研究科 生物学専攻
特命講師 末次 健司

背景

 伊豆諸島は、他の島と陸続きになった歴史をもたない海洋島であるため、偶発的に漂着した生物が島の生物相を支える材料となる。よって伊豆諸島では花粉媒介の仲立ちをする昆虫は本土からの距離に比例して減少する傾向がある。このような花粉媒介者が不足する環境の伊豆諸島でも、植物は、豊富に存在する別の昆虫に受粉を託すように、あるいは、花粉媒介者の助けなしで受粉できるように進化を遂げていると考えられる。例えば、伊豆大島以外の伊豆諸島ではマルハナバチ類が分布しないため、本来マルハナバチによって受粉されていた花は、小型のハチや自家受粉によって種子繁殖を行う可能性がある。しかしながら本土で主にマルハナバチ類に花粉媒介を託している植物が、伊豆諸島でどのように受粉を達成しているのか明らかではない。

目的

 マルハナバチ類に花粉媒介を託している植物が、伊豆諸島で生育できる理由として、(1) 花形質を変化させ、伊豆諸島でも豊富に存在する昆虫に花粉媒介者を転換した可能性と (2) 昆虫に受粉を頼らずにすむ自家受粉を獲得した可能性が、考えられる。特に、花粉を運ぶ昆虫との関係性が多様化に寄与したと考えられているラン科植物に焦点を当て、どちらが伊豆諸島での生存に寄与しているのかを明らかにする。

方法

 本来、マルハナバチ類などの大型のハナバチに花粉媒介を託していると考えられる植物(特にラン科植物中心)について、伊豆諸島と本土の他地域においてその送粉者を特定するとともに、自動自家受粉能力の有無について、開花個体に袋掛けを行うことにより明らかにする。また花形態を本土の他地域と伊豆諸島の個体との間で比較し、それぞれの送粉様式に応じた適応がみられるか検討する。また本土と伊豆諸島の間で送粉様式に変化が見られたものを中心に、塩基配列を決定し、伊豆諸島と本土の植物体の遺伝的分化の有無を検討する。

期待される成果

  海洋島における送粉共生関係の変化は、多くの生態学者、進化生物学者が注目してきたテーマである。これを明らかにするためには、海洋島の固有種とその近縁種の生活史を比較するという方法が考えられる。しかしながら別種間での比較では、系統的に離れていることから、正確な進化の過程を追うことは難しい。本研究では、同種内の変異 (極めて近い過去に起こった変異) に注目することで、系統学的に離れた植物間の比較解析では得られない強固なロジックを導き出すことができると期待される。