植物研究助成

植物研究助成 26-08

根圏・植物内生微生物を利用した環境調和型生物農薬の開発

代表研究者 大阪大学 生物工学国際交流センター
准教授 木谷 茂

背景

 化学農薬の濫用は、社会問題であるヒト薬剤耐性菌を発生させるだけでなく、植物生長を促進する微生物までも死滅させ、生態系を乱すことが危惧されている。この化学農薬に代わる次世代型農薬として、微生物を活用する生物農薬が注目されている。この生物農薬は、化学農薬に比べ植物病原菌に抵抗性を生じさせることは少なく、植物生長に有益な微生物を駆逐しない。また、生物農薬は有機栽培に適用できる付加価値を産み出し、その使用は環境保全型農業へと結びつくと期待される。つまり、生物農薬は、安全かつ環境に優しい環境調和型防除技術といえる。生物農薬である微生物の全てが単純な土壌から分離されているため、その植物定着性が疑問視されているのに対し、生物農薬の新たな分離源として、植物が期待されている。植物の体内またはその根圏に生息する微生物には、高い植物親和性が予想される。したがって、これらの微生物を利用すれば、定着率の問題を克服し、実用的な生物農薬の開発へと繋がると考えた。

目的

 H28年度研究より、大島から分離した植物関連微生物は多様性に富み、かつ抗植物病原菌活性を示すことが明らかとなった。H29年度は、微生物多様性がさらに期待される神津島と新島、また相模湾の初島から植物関連微生物を分離する。次に、抗植物病原菌作用の解析を通じて、分離微生物の生物農薬としての評価を行うと同時に、その作用物質を同定することを目的とする。

方法

 H28年度に分離した微生物が産生する抗植物病原菌物資の同定解析を継続する。並行して、新たなる島にて植物とその根元の土壌を採集し、H28年度と同様に、植物関連微生物を分離する。分離微生物の多様性を明らかにするため、16S rDNA情報を分析し、分離微生物の属種を同定する。植物病原菌に対する生育阻害能を指標にして、抗病原菌物質を生産する微生物を確定する。その後、分離株の培養液を精製し、抗病原菌物質の化学構造を機器分析により同定する。

期待される成果

 本研究により、環境生態系を乱さない、つまり環境調和型生物農薬となる微生物を見出せ、その抗植物病原菌作用を発揮する物質を同定できる。自然環境に由来するこれらの微生物と作用物質は、農作業現場で安全に活用され、環境に優しい農作物栽培法に貢献することが期待される。