植物研究助成

植物研究助成 26-10

伊豆諸島における長口吻送粉者の不在が植物の繁殖に与える影響

代表研究者 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科
教授 丑丸 敦史

背景

 世界的にマルハナバチ類などの長口吻送粉者の急減が報告されている。長口吻送粉者は長い花筒など特殊な花形態をもつ植物の送粉を担っており、その減少・絶滅はこれらの植物の繁殖減少・絶滅を引き起こすと危惧されてきた。しかし、野外植物群集を対象に長口吻送粉者減少がもたらす影響を調べた研究はない。
 伊豆諸島ではマルハナバチ・アゲハチョウの分布が限られ、シマホタルブクロやシマクサギなど一部の長花筒植物では、これらの不在が短口吻送粉者やスズメガなど他の長口吻送粉者への花の適応が起こるとされてきた。しかし、多様な植物・送粉者からなる群集全体への長口吻送粉者不在による影響は未解明であった。
 申請者らは本州と伊豆諸島の海浜群集を対象とした研究から、長口吻送粉者不在が長花筒花への短口吻送粉者の訪花を増加させることを明らかした。そのため、この送粉者の訪花パタン変化が植物種の繁殖成功に与える影響を群集レベルで定量的に把握することが次の課題となった。

目的

 長口吻送粉者が少ない伊豆諸島と多い本州において、植物相が類似する海浜群集を対象とし、長口吻送粉者の不在による送粉者群集の訪花パタン変化が植物群集の繁殖成功に与える影響を検証する。

方法

 伊豆諸島と本州の海浜で優占する植物(ハマオモト、ハマカンゾウ、ケカタバミなど)の送粉者相を調査地間で比較する。植物種の送粉成功・結実率、形質(花サイズ・花筒長)を各調査地30個体以上測定する。以上から、訪花数・送粉者相の変化の繁殖成功や花形質の適応への影響について解析する。

期待される成果

 野外データに基づいて長口吻送粉者の減少・不在が植物群集に与える影響を明らかにでき、そのリスクの予測ができる。具体的には、長口吻送粉者が極低頻度である調査地と多く訪花する調査地の比較から、長口吻送粉者が少ない場合、送粉・種子生産に失敗する植物種は存在するのか、他の送粉者への依存で繁殖が補償される植物は存在するのか明らかにする。前者の植物種が多い場合、植物群集への影響は大きいと予測され、早急な対応が必要であることを提言できる。
 また本研究は海洋島で大陸島とは異なる植物-送粉者のネットワーク構造がみられるという、島嶼生態学にとっても新しく、価値のある知見が提供できる。