植物研究助成

植物研究助成 26-18

トマト葉の紫外光励起蛍光スペクトル変化と硝酸イオン濃度の関係

代表研究者 木更津工業高等専門学校 基礎学系
准教授 嘉数 祐子

背景

 農業従事者の減少や農産物の高付加価値化の観点から植物工場への注目が高まっている。我々の研究グループは太陽光型植物工場において細霧冷房による気温・飽差インテリジェントコントローラを開発し、光合成最大化による収量増加を目指している。一方、トマトの収量・品質を高めるためには窒素施肥が不可欠である。施肥のタイミングを判断する手法の一つに葉柄汁中の硝酸イオン濃度を指標とする方法があるが、葉柄汁の採取は破断や圧搾などの手間がかかる。
 申請者はこれまでコマツナ葉を用いて、葉柄に含まれる硝酸イオンの有無によって405nmの励起光源を使用した際の蛍光強度比が変化する可能性を示してきた。この手法を用いれば非破壊・非接触でトマト葉柄に含まれる硝酸イオン濃度の測定が可能となり、窒素施肥のタイミングを数値的に把握することが可能となる。

目的

 本研究では、トマトの窒素施肥指標の1つである葉柄中硝酸イオン濃度を、紫領域及び紫外領域光を励起光源とする蛍光スペクトル強度変化に基づいて測定する手法の確立を目指す。具体的には、コマツナの硝酸イオン濃度を調べる手法が、葉に毛状突起をもつトマトにも適用可能かを検証する。また、実際の太陽光型植物工場の環境下でも本手法の再現性が得られるかを検討する。

方法

 まず、適正温度・湿度等に調整されたチャンバー内において育成したトマトの葉柄を用いて、葉柄汁に含まれる硝酸イオン濃度と蛍光スペクトル強度変化の関係を調べる。その際、励起波長依存性を考慮し複数の励起波長を用いる(325nm、365nm、405nm)。また毛状突起が蛍光計測に影響を及ぼさないか、毛状突起を取り除いた場合と比較する。次に、実際の細霧冷房によって管理された夏季と冬季の植物工場においてトマトの葉柄に含まれる硝酸イオン濃度と蛍光強度を測定し、実際のフィールドでも同様の関係性を再現できるかを検証する。

期待される成果

 硝酸イオン濃度と蛍光スペクトル強度比変化の関係が他の野菜にも適用可能であることが明らかになれば、幅広い農産物の生産現場で窒素施肥の判断を数値的に把握することが可能となる。さらに、蛍光スペクトル強度変化は水分ストレスなどでも引き起こされるという報告もあるため、本研究は複合的な生育診断法開発の一部を担うこととなる。