植物研究助成

植物研究助成 26-21

ダイコン野生種を用いた放射性セシウムの効率よい吸収回収方法の研究

代表研究者 京都大学大学院 人間・環境学研究科
教授 瀬戸口 浩彰

背景

 福島第一原子力発電所の事故から5年を経過した。原子力発電所が立地する福島県大熊町では、未だに広い面積の帰還困難区域を抱えながらも除染を積極的に行って、低い線量の地域から帰還を目指している。申請者はダイコンの野生種であるハマダイコンがセシウムを効率よく吸収することを見いだし、大熊町役場の産業建設課とともに、除染実験を行ってきた。しかし昨年に国の方針によって帰還困難区域を「中間貯蔵施設」として立入禁止地区に指定し、大熊町における実験圃場は、土壌の放射線量が低いエリアに移設された。

目的

 (1)放射性セシウム量が比較的低い土壌から、植物体へどの程度のセシウムの移行があるかを検証する。(2)種子の入手が容易な栽培大根を用いた除染効果を従来の大根野生種と比較検証する。(3)ハマダイコンの葉の細胞の中で、どの細胞内小器官にセシウムが蓄積するかを検証する(同じ一価の陽イオンであるNaやKと同様に、液胞が貯蔵組織であると考えている)。

方法

 (1)(2)土壌の処理方法(pHの調整や投与する肥料)や、栽培するハマダイコンの系統の選抜、ならびに栽培用品種の選抜によって、放射性セシウム量が比較的低い土壌からでも除染効果を最大に出来る栽培条件を策定する。とくに、長期間に渡って葉を多く茂らせる系統の選抜に着目して進める。
 (3)非放射性セシウムを投与したハマダイコンの葉からプロトプラストを作成した後に、液胞を単離して、そのなかにセシウムが高濃度で蓄積していることを分析・確認する。

期待される成果

 住民の帰還が計画されている地域は比較的に放射線量が低い地域であるため、その土壌を用いた効率の良い除染条件を設定することには実用的な価値がある。また、栽培品種を用いることができるならば、種子を購入することができるために、栽培が容易になることが見込まれる。このように帰還に向けた現実的な方法を探ることが期待できる。
 また、セシウムを最も吸収する器官は葉であるが、細胞内の貯蔵部位は不明であった。本研究の実施によって、その部位が特定できることは、セシウムの原子が大きいサイズであるが故に生物学的にも意義があると考える。