植物研究助成

植物研究助成 27-03

種子食性昆虫による種子食害がササの開花習性の進化に与える影響の解明

代表研究者 秋田県立大学 生物資源学部 生物環境科学科
助教 坂田 ゆず

背景

 ササは、一回繁殖性で広域同調開花性を示す植物であり、これまでササの開花周期が長い理由について、捕食者の飽和、競争回避、空間遺伝構造の観点から仮説が提唱されてきたが、繁殖に昆虫が及ぼす影響について注目されてこなかった。広域にわたるササの開花は希な現象である一方で、小規模な開花はしばしば見られる。しかし大量の種子繁殖が知られている広域開花に比べて、小規模開花では結実する前に複数の昆虫に多くの種子が食害されていることが分かってきた。伊豆半島は、複数種のササ草原が顕著に発達している貴重な地域であり、ササの開花習性の進化に種子食性昆虫が与える影響を解明することは、伊豆半島の森林の動態を理解し、ササ群落を保全する上で重要である。

目的

 本研究では、種子散布前の被食者の飽和がササの開花習性の進化に重要な影響を与えていると考えた。そこで、伊豆半島におけるササの種子食性の昆虫の種、分布、密度を調査し、昆虫の種組成と生活史を明らかにする。さらに、ササの小規模開花と一斉開花における種子食害率の違いや経年変化からササの開花規模や開花周期と種子食害の関係を解明することを目的としている。

方法

 伊豆半島や箱根山系に生育するササ類において、種子食性の昆虫の採集、飼育を行う。得られた昆虫は、羽化させDNA解析により、ササの種や開花規模で比較し、生活史を明らかにする。また、ササの開花規模や開花密度と種子食害率の関係を野外調査によって明らかにする。さらに、スズタケにおいては昨年から開花が見られた一斉開花集団でも同様に調査を行う。

期待される成果

 ササの種子生産を規定する生物的要因である昆虫の食害を同じ地域に生育する複数種のササや一斉開花集団において比較することは、昆虫の種子食害とササの個体群動態や長期開花周期の進化の関係ついて重要な示唆を与えるものと期待される。また、滅多に咲かないササの種子を食べる昆虫の生活史を解明することで、種子食性昆虫の食性幅や種子利用への進化について新しい視点をもたらすと考えられる。