植物研究助成

植物研究助成 27-04

茶育成品種との比較を通じた植物研究園周辺地域の茶在来種の特徴づけ

代表研究者 静岡大学学術院 農学領域
准教授 一家 崇志

背景

 日本の茶栽培は、エリート品種「やぶきた」とその血を受継ぐ品種群が栽培面積の大部分を占めている。一方、日本古来の在来種には形態、成分品質や病害抵抗性等の有用形質ついて多様性を持つ個体が存在するため、茶の消費拡大のためにも特徴的な個性をもつ品種素材の開発が望まれている。この遺伝資源を活用する試み、即ちバイオリソース収集(品種やDNA等の収集・保存)については、品種間ゲノム情報に加えて、カテキン等の既知の生理活性物質やその他の有用化合物の含量情報が、バイオリソースに産業的な情報付加価値を与える。

目的

 熱海市および伊豆半島を中心とする地域は、これまでにも多くの茶の在来種が存在することが知られている。さらに、伊豆半島は地球科学的に見てもその土壌環境が大きく異なり、同じ遺伝背景を持つような在来種においても特性が異なることが示唆される。本研究では、熱海植物研究園内およびその周辺に分布する茶の在来種の化学成分的特性を調査し、「やぶきた」との比較を通じたその個性の特徴付けを行なうことで新規素材探索を行なう。

方法

 4月初旬にかけて熱海周辺地域から対象茶樹を選定し、4月中下旬の一番茶摘採時期に新芽を収穫する。新芽中のアミノ酸やカテキン類等の主要化学成分の他に、揮発性成分(香り成分)の網羅的な探索を行い、相関解析により各品種の特徴づけを行なう。なお、対象茶樹選定は土壌条件(pH、無機成分含量)等の環境要因も含めて行い、「やぶきた」を含めた10−20系統程度を対象とする。

期待される成果

 国内における茶の消費量は低迷しているが、機能性や新規性に富む素材開発は生産現場からも必要性が高く、生産規模の拡大による需要増加も見込まれる。例えば、「白葉茶」等の高級茶は商業的価値が非常に高く、海外においても需要・栽培面積が拡大している。しかし、茶の新規素材開発については既存の育成品種から価値を見出すことが困難で、可能性を秘めている在来種等の遺伝資源についても詳しい特性は不明である。また、栽培環境と品質との関係性については以前から議論されているが、その研究例も極めて少ない。本研究における在来種の特徴付けと環境要因との相関解析による全体像の解明は科学的意義も高く、栽培方法の確立と今後の育種対象となる有用形質を提供することができる。