植物研究助成

植物研究助成 27-05

シイ属、カエデ属、タケ・ササ類のテルペン類の放出特性の解明とそれら放出速度の定量化

代表研究者 静岡県立大学 食品栄養科学部 環境生命科学科
助教 望月 智貴

背景

  地球全体で、植物が生産し放出するテルペン類(生物起源揮発性有機化合物)は人為起源揮発性有機化合物の放出より数倍多い。O3やOHラジカルとの反応性が高いテルペン類は局地的なO3生成を助長し、大気質を悪化させる。一方、テルペン類は香り成分であり人の心身をリラックスさせる効果がある。テルペン類の放出の有無、成分、放出速度とそれらを制御する環境要因は樹種ごとに異なる。シイ属とカエデ属(日本の広葉樹の中で森林面積が同率4位)、タケ・ササ類(6位)のテルペン類の放出速度は解明されていない。平成29年度の植物環境助成で行った研究より、スダジイ(シイ属)とイロハカエデ(カエデ属の主要樹種)から大量にモノテルペンが放出されることが明らかとなった。

目的

 本研究では、日本産カエデ(約35種)のテルペン類放出有無のスクリーニング測定を行い、放出の有無を分類する。さらに、生育環境(気候、大気質)の違いがスダジイとイロハモミジのモノテルペン放出量に及ぼす影響を明らかにするため、それら樹種のモノテルペン放出速度を静岡県内の新技術開発財団植物研究園と函南原生林(温暖で大気汚染なし:年平均気温16℃)、富士山麓(寒冷で大気汚染なし:9℃)、東京都内(温暖で都市大気:16℃)で測定する。

方法

 樹木のテルペン類放出の大小は、気温30℃、光合成有効光量子束密度(以下、PPFD)1000 μmol m-2 s-1の条件に標準化した放出速度(以下、基礎放出速度)で比較される。そのため、気温、PPFDを制御しながらテルペン類ガスを採取できるリーフキュベット装置を作製する。キュベット内のテルペン類は吸着剤を充填した採取管に捕集し、加熱脱着装置付きガスクロマトグラフ質量分析計で測定する。日本産カエデのテルペン類放出有無のスクリーニング測定と生育環境の異なる静岡県、富士山麓、東京都内に生育するスダジイとイロハモミジのモノテルペン基礎放出速度を測定し、まとめる。

期待される成果

 都市の光化学オキシダント生成に対する主要道路緑化樹木のカエデ属由来テルペン類の影響を評価するための知見となる。生育環境の違いがシイ属とカエデ属のテルペン類放出に及ぼす影響を明らかにし、今後起こりうる気候変動が広葉樹のテルペン類放出に及ぼす影響を明らかにするための知見が得られる。