植物研究助成

植物研究助成 27-06

セリ科における海岸と山地に生育する近縁種間の種分化に関する研究

代表研究者 富山県立大学 工学部 教養教育
准教授 鈴木 浩司

背景

 日本のセリ科植物は31属約80種が知られ、いくつかは日本固有種である。伊豆・箱根および隣接地域の山地に生育するイワニンジンAngelica hakonensisと同じく伊豆半島を含む東海地方の海岸地に生育するアシタバAngelica keiskeiも日本固有とされている。イワニンジンは山地の岩石地に生育する小型の草本で、一方、アシタバは海岸に生育し、茎は太く比較的大型の草本である。両者はこれまで形態的に近縁であるとは考えられていなかったが、分子系統解析によるとかなり近縁であることが示された。つまり、系統的に近縁であるならば、両者は伊豆・箱根地域を舞台に山地生と海岸生に種分化したのではないかと考えられる。

目的

 本研究では、イワニンジンとアシタバを対象に、伊豆半島地域における両者の分布、生活史や繁殖様式(遺伝的特性)、交雑性の有無、さらに伊豆半島の地史的特性を踏まえた解析を行うことで、「両者はごく近縁であり、伊豆・箱根地域を舞台に種分化した」という仮説を検証することを目的とする。

方法

 伊豆半島および近接地域を対象に、文献や標本庫調査、現地調査によりイワニンジンとアシタバの生育状況を把握する(アシタバの栽培地からの逸出に注意する)。外部形態のみならず、現地調査による生活史や繁殖様式(開花期や結実期、訪花昆虫や自殖性の有無の検討)、染色体数(イワニンジンの染色体数は知られていない)について明らかにし、さらにシシウド属の他の種を含めて比較検討を行う。

期待される成果

 伊豆・箱根地域には独自に進化したと考えられる種や個体群(変種など)が知られているが、それらは伊豆半島を取り巻く複雑な地理的・地史的環境が寄与していると考えられる。本研究により伊豆半島独自の環境による種分化の一例を明らかにできるだろう。それは、伊豆半島の植物相の成立過程を理解するための手がかりとなるはずである。