植物研究助成

植物研究助成 27-09

伊豆諸島における長口吻送粉者の不在が植物の繁殖に与える影響

代表研究者 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科
教授 丑丸 敦史

背景

 世界的にマルハナバチ類などの長口吻送粉者の急減が報告されている。長口吻送粉者は長い花筒など特殊な花形態をもつ植物の送粉を担っており、その減少・絶滅はこれらの植物の繁殖減少・絶滅を引き起こすと危惧されてきた。しかし、野外植物群集を対象に長口吻送粉者減少がもたらす影響を調べた研究はない。伊豆諸島ではマルハナバチ・アゲハチョウの分布が限られ、シマホタルブクロやシマクサギなど一部の長花筒植物では、これらの不在が短口吻送粉者やスズメガなど他の長口吻送粉者への花の適応が起こるとされてきた。しかし、多様な植物・送粉者からなる群集全体への長口吻送粉者不在による影響は未解明であった。申請者らは平成29年度の研究により、長口吻送粉者の不在は、長花筒植物種だけでなく複数の中花筒植物種において形質進化を促す可能性を見出した。

目的

 長口吻送粉者(マルハナバチ・アゲハチョウ)が少ない伊豆諸島と多い本州において、植物相が類似する海浜群集を対象とし、長口吻送粉者が少ない伊豆諸島では、長花筒植物はスズメガもしくは小型ハナバチに適応した花形態に、中花筒植物は小型ハナバチに適応した花形態になるという仮説を立て検証する。

方法

 平成29年度の研究により伊豆諸島と本州間で花形質の変化が確認された植物(スイカズラ、ハマボッスなど)の送粉者相を調査地間で比較する。今年度は不足している夜の送粉者のデータを重点的に集める。また、3Dスキャナを用いて、調査地間の花形質の変化を3次元データとして捉え、長さだけでなく花弁や雄しべなどの湾曲具合についても測定を行う。29年度のデータと合わせて、訪花数・送粉者相の変化の繁殖成功や花形質の適応への影響について解析する。

期待される成果

 野外データに基づいて長口吻送粉者の減少・不在が植物群集に与える影響を明らかにでき、そのリスクおよび植物群集で起こる適応の予測ができる。具体的には、長口吻送粉者が極低頻度である調査地と多く訪花する調査地の比較から、長口吻送粉者が少ない場合、送粉・種子生産に失敗する植物種は存在するのか、他の送粉者への依存で繁殖が補償される植物は存在するのか明らかにする。
 また海洋島で大陸島とは異なる植物-送粉者のネットワーク構造がみられるという、島嶼生態学にとっても新しく、価値のある知見が提供できる。