植物研究助成

植物研究助成 27-10

蛍光ライダーを用いた航空機植生観測シミュレーション実験

代表研究者 信州大学学術研究院 工学系
教授 齊藤 保典

背景

 クロロフィル蛍光計測により光合成情報を直接取得する衛星観測の報告が相次いでいる。一方衛星観測は地上での検証を要するが、両者には時空間分解能等で基本的な差異が存在する為、互いを結び付ける新手法が求められている。

目的

 衛星と地上観測を繋ぐ「航空機蛍光ライダー装置の開発」を最終目標に置き、本年度は「蛍光ライダーを用いた航空機植生観測シミュレーション実験」を行う。「樹木葉蛍光の通年観測」と「車載蛍光ライダーでの集中観測」のデータを基に「航空機蛍光ライダーシミュレーション設計」を実施し、「装置製作と植生観測への応用指針」としてまとめ、最終目標に向けた基盤技術の確立を目指す。

方法

 
(1) 通年観測による蛍光法有用性の再検証:昨年完成の蛍光ライダー装置を用いて樹木葉の蛍光観測を継続し、成長と枯死過程のデータを得る。植物生育診断指標(クロロフィル蛍光740nm/685nmと二次代謝産物蛍光400-600nm)を化学分析結果と比較して蛍光法有用性の再検証を行い、指標の完成度を高める。
(2) フィールド集中観測:車載型改良装置を用いて、航空機蛍光ライダーシミュレーション実験を行う。「掃引」観測により、航空機移動に伴うフットプリント分解能変化、信号積算と観測範囲等、航空機植生観測に必要なデータを得る。
(3) 航空機蛍光ライダー製作指針:上記結果を用いた設計シミュレーションにより、航空機搭載蛍光ライダーの製作と植生観測に関する指針案を作成する。

期待される成果

 
(1) 衛星-航空-地上観測を「同一指標で繋ぐ」標準計測手法と標準計測装置(ライダー)の提供による、植生診断に向けた技術支援効果が期待される。
(2) 航空機観測は、衛星観測で不十分な観測域分解能、地上観測で不十分な広域観測性等への解決案を提供する。例えば、帯広経営耕地面積約2.2万haをセスナ機蛍光ライダーで20m分解能で計測すると、農産物生育状況の全域把握が約10日(5時間運航)で完了する。20m毎の生育差に対して個々の対処が可能で、その効果は、同一栽培地域内での均一品質や安定収穫量の確保に繋がる。
(3) 生育診断分布図を供することができ、灌水や農薬散布の必要/不要の判断基準を与える。投資の最適化や経済性を考慮しかつ環境保全配慮型の営農や林業経営への貢献となる。